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千一夜
第24章 第四夜 線状降水帯 ⑧
 映像のことなら伊藤はスタッフを怒鳴ることだってできた(まぁ今の時代、声を大きくした時点で大きな問題になるが)。だが、上場に関する仕事となると話は別だ。だから高谷を引き抜いたのだし、証券会社からもサポートが入っているのだ。
 気が重いまま伊藤は会議室のドアを開けた。案の定、シーンと静まり返っている部屋の中は重い空気が漂っていた。誰が机とテーブルのセッティングをしたのか、証券会社のサポートチームと伊藤の会社のチームは向かい合った状態だった。
 伊藤は両方の陣営を見渡す席に腰を下ろした。原告と被告(どちらが正義でどちらが悪というわけではないのだが)、伊藤は、それを裁く裁判官のようになってしまった。
 どうきりだせばいい? 伊藤は迷った。伊藤は取り合えず机の上に用意されていた資料を手に取った。ページを繰って書かれている文字や数字を見ても伊藤はちんぷんかんぷんだった。資料を机の上に置く前に、伊藤は聞こえないようにため息をついた。仕事のせいなのかそれとも歳のせいなのか、最近ため息をつくことが多くなったと伊藤はふと思った。
 取り合えず、高谷を虐めている証券会社のチームに目をやった。するとその中の一人と目が合った。その目は伊藤を待っていた。
 あれ? 伊藤はその目の人物に見覚えがあった。
「橘? ……君、橘裕子か?」
 伊藤は思わずそう言った。
「はい。○○証券から参りましたチームリーダーの橘です」
 裕子は柔らかな笑顔を伊藤に返した。
「久しぶりだな、いや、何十年ぶりだよ」
「二十二年ぶり……でしょうか?」
「橘は高校の同窓会に出ないだろ?」
「申し訳ございません」
「謝る必要なんかないよ。みんな忙しいんだ。それに同窓会に集まる人間もだんだん少なくなってきた」
 伊藤と橘は同じ高校の同級生で、伊藤は生徒会長、そして橘は副会長だったのだ。
「会長の会社のお手伝いが出来て光栄です」
「もう僕は高校の生徒会長じゃないよ。それに光栄なのは僕のほうさ。ダメダメな生徒会長を橘はいつも助けてくれた。橘には感謝しかない」
「ありがとうございます」
 伊藤と橘のやり取りを両方のチームの人間はぽかんとした顔で聞いていた。
 場の雰囲気が一気に変わった。伊藤はそれを見逃さない。伊藤は言うべきことをしっかりと両陣営に伝えた。
 伊藤の締めくくりの言葉は「遅れは許されない」だった。 
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