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千一夜
第24章 第四夜 線状降水帯 ⑧

「だったら話は簡単だな。橘には上場後、僕の会社に来て欲しい。いや、できることなら今すぐにでも僕の会社に来て欲しい。財務担当の役員として僕の会社を助けて欲しいんだ。頼む」
「ふふふ」
「何が可笑しいんだ?」
「今すぐは無理」
「わかってるさ、お前にも仁義があるだろうからな」
「ふふふ、仁義だって」
「古臭い言い方だったな。脚本を書く人間としては失格か」
「いいえ、とてもいい流れの中で出た台詞だと思うわ。ねぇ、伊藤君」
伊藤に抱かれた裕子はずっと伊藤を窺っている。
「何だ?」
「生徒会室で伊藤君が一人になるといつも伊藤君は音楽を聴いていたでしょ?」
「ああ」
「みんなは流行りの歌を追いかけているのに、伊藤君はカセットテープで五十年代、六十年代のアメリカの歌を聴いていたの」
「……」
「自分は他の人間とは違うんだ、っていう感じで聴いていた伊藤君、ちょっと生意気に見えたわ」
「間違いなく僕は生意気な男だった」
「でも私、生意気な伊藤君が好きだった」
裕子はそう言うと伊藤の胸にキスをした。
「知らなかったな。お前は勉強にしか興味がないと思ってた」
「失礼ね。伊藤君、覚えてる?」
「……」
「椅子に座っていた伊藤君が足を机の上に投げ出して窓の外を眺めていたの。人を惹きつける映像を作る人間は絵になるんだなって思ったわ。私ずっと絵になる伊藤君を見ていたのよ。もちろんそのときも音楽がかかっていたわ。その曲のメロディーは今でも耳に残っている。でも残念だけど私のその曲の題名を知らないの。伊藤君その曲の曲名教えてくれる?」
「絵になる男でもそれは無理だ。ヒントとかないのか?」
「ふふふ」
「あるんだな」
「あるわよ」
「教えてくれ」
「伊藤君、生徒会室にいる私を認めるとこう言ったの『橘、一緒に踊るか?』って」
「踊る?」
「そう、踊る」
「気障な台詞だ」
「でも伊藤君は気障な台詞が似合っていたわよ」
「踊る……踊る……なんだろうな、踊りたくなるような曲なんてたくさんあるからな」
「思い出してよ」
「……」
伊藤は目を瞑り高校の生徒会室を記憶の中から探ってみた。確かに伊藤は生徒会室で一人のときはいつも音楽を聴いていた。五十年代、六十年代のアメリカの音楽。誰かと踊りたくなるような曲なんてたくさんある。
そのとき、伊藤の頭の中にあるジュークボックスが一枚のレコードを選んだ。
「ふふふ」
「何が可笑しいんだ?」
「今すぐは無理」
「わかってるさ、お前にも仁義があるだろうからな」
「ふふふ、仁義だって」
「古臭い言い方だったな。脚本を書く人間としては失格か」
「いいえ、とてもいい流れの中で出た台詞だと思うわ。ねぇ、伊藤君」
伊藤に抱かれた裕子はずっと伊藤を窺っている。
「何だ?」
「生徒会室で伊藤君が一人になるといつも伊藤君は音楽を聴いていたでしょ?」
「ああ」
「みんなは流行りの歌を追いかけているのに、伊藤君はカセットテープで五十年代、六十年代のアメリカの歌を聴いていたの」
「……」
「自分は他の人間とは違うんだ、っていう感じで聴いていた伊藤君、ちょっと生意気に見えたわ」
「間違いなく僕は生意気な男だった」
「でも私、生意気な伊藤君が好きだった」
裕子はそう言うと伊藤の胸にキスをした。
「知らなかったな。お前は勉強にしか興味がないと思ってた」
「失礼ね。伊藤君、覚えてる?」
「……」
「椅子に座っていた伊藤君が足を机の上に投げ出して窓の外を眺めていたの。人を惹きつける映像を作る人間は絵になるんだなって思ったわ。私ずっと絵になる伊藤君を見ていたのよ。もちろんそのときも音楽がかかっていたわ。その曲のメロディーは今でも耳に残っている。でも残念だけど私のその曲の題名を知らないの。伊藤君その曲の曲名教えてくれる?」
「絵になる男でもそれは無理だ。ヒントとかないのか?」
「ふふふ」
「あるんだな」
「あるわよ」
「教えてくれ」
「伊藤君、生徒会室にいる私を認めるとこう言ったの『橘、一緒に踊るか?』って」
「踊る?」
「そう、踊る」
「気障な台詞だ」
「でも伊藤君は気障な台詞が似合っていたわよ」
「踊る……踊る……なんだろうな、踊りたくなるような曲なんてたくさんあるからな」
「思い出してよ」
「……」
伊藤は目を瞑り高校の生徒会室を記憶の中から探ってみた。確かに伊藤は生徒会室で一人のときはいつも音楽を聴いていた。五十年代、六十年代のアメリカの音楽。誰かと踊りたくなるような曲なんてたくさんある。
そのとき、伊藤の頭の中にあるジュークボックスが一枚のレコードを選んだ。

