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千一夜
第24章 第四夜 線状降水帯 ⑧
 間違いない、あの曲だ。伊藤は確信した。
 伊藤はサイドテーブルに手を伸ばしてスマホを取った。電源を入れる。しばらくしてから伊藤はスマホの画面をスクロールし始めた。裕子は伊藤のその様子をじっと見ていた。
「橘、この曲だ」 
 伊藤はそう言ってスマホの画面を軽くタップした。
 六十年代の曲が鳴る。スローなテンポのバラードではない。とてもリズミカルにその曲は始まった。
「そう、この曲よ。間違いないわ。この曲は何て言うの?」
「テンプテーションズのGet Ready」
「テンプテーションズ?」
「そう」
「Get Ready……」
「いい曲だろう」
「……」
「どうしたんだ?」
「後悔してるの」
「後悔?」
「あのとき、伊藤君と踊っていたら私の人生は違っていたかもしれないから」
「橘」
「何?」
「一つだけ言えることがある。僕と踊っても踊らなくてもお前はずっと優秀だ。頭の回転が速くてそれでいて賢い。ふと思うことがあるんだ。生徒会長だった僕をコントロールしていたのは橘、お前だ。お前が本当の生徒会長だった」
「ふふふ」
「何だよ、何が可笑しいんだ?」
「私は伊藤君を立派な生徒会長にしたかっただけ」
「やっぱり僕は橘に操られていたんだな」
「伊藤君、もうそれは昔のことよ。大昔と言ってもいいわ」
「大昔か……あの頃を思い出すことなく僕の人生は前に進んだ」
「私も同じ」
 六十年代の名曲が静寂の中で踊っていた。そしてそのステップがだんだん小さくなる。
「今聴いても良い曲だろう?」
 伊藤は曲を止めてスマホの電源を切るとそれをサイドテーブルに戻した。
「随分短い曲なのね」
「五十年代、六十年代の曲の多くは三分に満たないものが多い。でもその短い時間の中に音楽の楽しさと喜び、そして美しさが凝縮されている」
「伊藤君、今度は音楽評論家に転身でもするの?」
「無理だね。僕は単なる音楽好きな四十男だよ」
「四十男だなんて言わないでよ。伊藤君がそう言うと私は自動的に四十女になるわ」
「だよな。ははは」
「ふふふ」
 伊藤と裕子は抱き合いながら笑った。
「橘、そろそろ条件を言えよ」
「とても簡単な条件よ」
「だからそれを言ってくれ」
「私はこれが欲しいの」
「痛っ!」
 裕子が伊藤のペニスを思いきり握った。
 
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