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千一夜
第24章 第四夜 線状降水帯 ⑧
「その鬼はどんな顔をしているんだ?」
「人間の顔をしているわ。株主という人間」
「僕も株主なんだが」
「全然違うわ。伊藤君は会社を興した筆頭株主」
「創業したときは僕だけじゃないんだが」
「じゃあ訊くけど、投資家は伊藤君以外の創業メンバー知ってる?」
「……」
「知らないわよ。創業メンバーの名前を伊藤君が消しているの」
「僕にはそんなつもりはない」
「伊藤君にそのつもりがなくても、投資家は伊藤君の名前だけで十分なのよ」
「それで」
「会社は永遠に成長する……これは極めて難しいことよ。伊藤君の会社の成長に陰りが見えたり、大幅な減収減益になったり、最悪赤字なんてことになったら、株主は黙っていないわよ」
「想像はできる」
「株主は間違いなく伊藤君の復帰を言ってくるわ」
「お断りだ」
「ダメダメ、伊藤君がどんなにいやでも、伊藤君は必ず会社に引き戻される。それが創業した人間の宿命なの。それが立場と責任。伊藤君はそこから逃げられない」
「そうなったら橘に頼むよ。もう僕の出番はなしだ」
「私もそうしてあげたい……」
 裕子はそこで言葉を一旦止めた。
「……」
「でも会長、私が伊藤君の会社にいたら鬼になって伊藤君を引き戻さなければならないの。わかってほしい」
「ふう」
 伊藤は大きなため息をついた。
「……」
 裕子には伊藤の気持ちが痛いほどわかる。だから何も言えなかった。
「副会長はいつも穏やかな顔だった。だから橘の鬼の顔が想像できない」
「映像屋さんの伊藤君なら想像しなきゃダメよ」
「ははは」
「何が可笑しいの?」
「きっと怖い顔をしてるんだろうな。大きなおっぱいでエロい体をしている鬼」
「止めてよ、伊藤君の意地悪」
 裕子は伊藤のペニスに手を伸ばしてそれを軽く握った。
「決まりだな。橘、僕の会社を頼む。それから高谷とはうまくやってくれ」
「あの人確かに仕事はできるわ。でもそれ以上にプライドが高すぎるのよ」
「男はみんなプライドが高い」
「会長、それ男女差別になるから」
「橘の前だけだ。許してくれ」
「許してあげる」
 そう言って裕子は柔らくなり始めた伊藤のペニスをしごいた。
「幸せ者だ」
「何?」
「僕のちんぽがさ」
「どうして?」
「東大出たビッチに弄られてるんだからな」
「伊藤君のバカ」
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