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千一夜
第26章 第四夜 線状降水帯  ➉
 深い眠りの底で伊藤は目を覚ました。現実とは違う世界。夢のようで夢ではない世界。伊藤が目を開けても真っ暗な世界は闇をさらに深くするだけだった。妙な空間ではあったが、伊藤が恐怖を覚えることはなかった。
 ただヌルヌルする地面はいただけない。伊藤はその地面に仰向けになって寝ている。伊藤は起き上がろうとしたができなかった。これが金縛りなのか、伊藤は暗い世界の中でそう思った。
 伊藤が息をすると、湿った空気が伊藤の肺に入り込んできた。ドロドロとした重たいものが伊藤の肺の中で広がっていく。そしてずっと土臭い匂いが伊藤の鼻を覆っていた。そのせいで伊藤は何度か吐きそうになった。
 あれ? この闇の世界に伊藤は既視感を覚えた。
 いつだっただろうか? あのとき自分は何をしてたのだろうか? 確か誰かに会ったはずだ。いい女だったような気がする。その女と自分は交わった……。でもその後が思い出せない。というか、その後のことなど思い出してはいけないと、何かが自分にブレーキを掛けている。その何かは自分の心臓の奥に潜んでいるような気がする。もしその何かを見つけたりしたら、その何かの手で心臓がぎゅっと絞られるような気がした。
 黒で覆われている世界。そんな中でも伊藤の頭だけはしっかり動いていた。このシチュエーションで芝居を作るなら……。
 真っ暗な闇の中に男が一人。目を開けても見えるものはなし。おまけに天井を向いて(そこが天井だと言う保証はない)仰向けに寝ている男は体を動かすことができない。誰かに話しかけようとしても誰かがいない。例えば誰かがいたとしても声が出るだろか。伊藤は試しに声を出してみた。案の定、声が出ない。つまり闇の中にいる男は話すことができないということだ。 
 こんな状況で芝居なんか作れるはずがない。いや待て、自分は天才だ。周りの人間も自分のことを芝居の神様だと信じている。だったら不可能であっても芝居を作ることができないなんて言えない。言えるはずがない。
 幸い考えることができる。台詞を頭の中で書くことだって不可能ではない。演者は自分で、どう演じるかも自分に指示すればいい。何度撮りなおしても、多分この世界なら時間に制限がないだろう。百%納得できるまで芝居と対峙できる。
 でも無駄だ。考えても意味がない。だってそうだろ。僕が作ったその芝居を誰が見る?
闇の中には自分しかいないのだ。
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