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千一夜
第26章 第四夜 線状降水帯  ➉
 この闇の世界に自分を救ってくれるやつなどいない。伊藤がどんなに考えを巡らしても、自分を絶望の淵から救う術が見つからなかった。
 味見をしようとしてる蛙の舌が、伊藤の顔をペロペロと舐め始めた。蛙の巣に持ち込まれようとしているのか、伊藤は二匹の蛙によってズルズルと引きずられている。抗おうとしても金縛りにあっている伊藤には何もすることができない。伊藤は抵抗することを放棄した。もう自分にすることは何もない。
 ひょっとしたらもう自分は死んでいるのではないだろうか。こんなに鮮明な夢などありえない。土臭い匂い。蛙に顔をペロペロと舐められている感覚。こんなにリアルな夢なんてあるのだろうか。
 死の世界に蛙がいるなんて何だかおかしいが、自分はそういう世界に入りこんでしまったのだ。運命……か。死んでも運命は存在し、そこから逃れることはできない。伊藤は絶望の中でぼんやりとそう考えた。
 食うなら食え。大して美味くないないだろうが、それは自分を選んだお前たちが悪いのだ。人選ミスだよ、人選ミス。伊藤は心の中で悪態をついた。
 伊藤は目を瞑った。あれ? 目を瞑っても蛙の顔から逃げられないでいたのだが、自分の顔をペロペロと舐めていた蛙が消えた。伊藤は思った。もう自分は食べられてしまったのかもしれない。これが死というものなのか。
 覚悟を決めたせいかもしれないが、泥が混じったあの土臭いに匂いがしなくなった。あの臭い匂いから離れられるだけでもありがたい。伊藤は死の世界(?)に感謝した。
 ところでこれからどうすればいいのだろうか。この世界に自分がしなければならないことなんて一つもない。暗闇の中で自分一人、これでは芝居をつくることなんて不可能だ。
 でも……でも暗闇の中でもこうして考えることだけはできる。この世界も満更でないかもしれない。絶望は諦めに変わり、諦めは思考に辿り着く。おかしなものだ。伊藤は闇の中で微かに口角を上げた。
 できることなら化石燃料で動く車をもう一度操ってみたかった。今ならマクラーレンW1か、色は黒。飲みたい酒ならきりがない。バーボンにスコッチ、それに日本酒。音楽はもちろんジャズ。さっきはビル・エヴァンスだったが、アートテイタムのピアノをもう一度聴きたい。
 大事なことを忘れていた。女。抱きたい女はたくさんいる。誰がいい……。伊藤は走馬灯に出てくる女を一人一人吟味した。
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