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千一夜
第26章 第四夜 線状降水帯  ➉
 いつまでこんな風に考えることができるのだろうか。すでに自分が死んでしまっているのなら、青い蛙と土臭い匂いさえ我慢すればこの暗闇の空間も悪くはない。だが必ずどこかの時点で(この闇の世界に時間という概念があるのかわからないが)思考は遮断されるだろう。伊藤はそれが怖かった。
 考えにふけることさえできれば、記憶の中から芝居や音楽、車に酒、そして女のこと探し出すことができる。だが、それができなくなったら……自分は自分としていられるだろうか。
 体の力だけでなく、伊藤から気力までも剝がれていった。なるようにしかならない。ここがどういう世界なのかはもうどうでもいい。この先何が起こるのかだけを教えてくれないか。伊藤は闇の世界の誰かに向かってそう願った。
 そのとき、飛び回る何本かの細い光の筋が伊藤に見えた。それは不規則にいろいろな方向に勝手に飛んでいった。あれ? あれは何だ? 伊藤は目を大きく開いて光の筋の後を追った。
 細い光の筋はだんだん太くなっていった。光のピースが闇に埋め込まれていき、ついには辺り一面が光で覆われた。闇と光が逆転したのだ。
 闇より光の世界の方がいい、というわけにはいかなかった。眩しすぎて目を開けていることができない。伊藤が目を閉じても眩しさから逃れることができなった。
 闇の世界にはうんざりだが、だからと言って光の世界は伊藤にとって心地いいものではなかった。
 やがて光の強さは弱くなっていき、眩しく感じた光が徐々に柔らくなっていった。光が落ち着いてくると何かの形が伊藤に見えた。伊藤が目を閉じる必要はもうない。だから伊藤は目をしっかり開けてその形が何であるかを探った。
 まさか青い蛙? もし青蛙だったら……。いや。光の世界に転換したのだ。蛙の登場はない。伊藤は自分に都合にいいように考えることにした。
 何かの形が人の顔の輪郭であることがわかった。伊藤はほっとした。もう二度と蛙と対面などしたくない。
 目が見えた。それから鼻と口。髪は……ショートかそれともセミロング? 女の顔だった。そう言えばついさっき最後に会いたい女のことを考えた。自分が最後に会いたい女は、今自分が見ているこの女なのだろうか。伊藤は現れた女の顔を見てそう思った。
 見覚えがある。この女を自分は知っている。でも名前が思い出せない。この女はいったい誰なんだ……。
「あっ!」
 
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