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千一夜
第26章 第四夜 線状降水帯  ➉
 ゆかりの声が伊藤の耳に届いた。
「……」
 伊藤はゆかりがどうして自分のことをパパと呼んだのか理解できなかった。
「パパ」
 ゆかりはまたにこりと笑って伊藤にそう言った。
「ふざけるな。お前はどうしてここにいるんだ? どうやってここに来たんだ?」
「ふふふ」
「笑うな!何をしにここに来たのかお前に訊いているんだ。答えろ!」
 伊藤は声を大きくしてゆかりにそう訊ねた。
「パパ」
「僕はお前の父親じゃない!」
 伊藤は声を荒げた。
「ふふふ」
 ゆかりが伊藤を跨ぐようにして起き上がっていった。起き上がったゆかりは伊藤を見下ろしてまた笑う。いや、ゆかりはずっと笑い続けている。
 伊藤は驚いた。ゆかりは全裸だったのだ。
「……」
 光の世界で伊藤はごくりと唾を飲み込んだ。ゆかりの裸が伊藤の目を釘付けにしたのだ。ゆかりは幼さがまだ残るスレンダーな体をしていた。伊藤は美しいと思った。
 胸の膨らみがいささか足りないが、それでもほんのりと盛り上がっている小ぶりな乳房は、地球の重力に若さと言う武器を使って抗っていた。
 細い陰毛は量が少ないせいで、割れ目を隠すことができない。ゆかりの綺麗な一本筋のま×こは、初めて男を受け入れる女性器のように伊藤には見えた。どこかでこのま×こを見たことがある。伊藤は過去に寝た女の陰部を思い出そうとした。ところが……。
 立ち上がっていたゆかりがしゃがんで伊藤に近づいてきたのだ。相変わらずゆかりは笑いながら伊藤のことを「パパ」と呼んでいる。
 ここでようやく伊藤は大事なことに気付く。光の世界でも伊藤は体を自由に動かすことができない。しかしゆかりは立ったりしゃがんだりできるのだ。
「おいやめろ!」
 ゆかりが伊藤の乳首を弄り始めたのだ。伊藤はこのとき自分もゆかりと同様に全裸でいることに気が付いた。
 体をよじって伊藤はゆかりの悪戯から逃げようとしたいのだが、意志を体が受け止めない。自分の体をコントロールできないのに、乳首はゆかりに弄られていることを感じている。
 香苗からは、万が一ゆかりと関係を持ったらゆるさないと忠告されている。だが伊藤の中では別の信号が点滅して、伊藤にゆかりと交わることは危険であると知らせている。
 伊藤はこの別の信号が怖かった。ゆかりとの交尾は絶対に許されない。
 まさか……。伊藤の中の不安が、化け物に変身しようとしていた。
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