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千一夜
第27章 第四夜 線状降水帯 ⑪

「チャンスよ」
「冗談じゃない。うちの会社にそんな金はない」
「あるわよ」
「仮にあったとしてもそれはテレビ局を買収するためのものではない。その金は」
「綺麗ごとばっかりじゃこの世界生きていけないのよ。それに買収じゃないの」
「どういう意味だ?」
「芝居だけやっていれば会社が大きくなると思ってるの? それこそ冗談じゃないわよ」
副社長の橘は一歩も譲らない。強い調子で伊藤にそう言った。
「僕はもう社長じゃない」
「そう、伊藤君は取締役会長で会社の筆頭株主」
「だから?」
「稟議に回しても頭を縦に振らない人間が二人いるの。誰だかわかるわよね?」
「香苗と僕か?」
「その通り」
「橘、もう僕を舞台から下ろしてくれ」
「いいわよ。この件が済んだら」
「はぁ」
伊藤の口から深いため息が出た。
「ため息なんかついてる場合じゃないわ。狙ってるのはうちだけじゃないのよ」
裕子のその言葉で伊藤はどのくらい話が進んでいるのかわかった。
「橘、全部話せ」
「サクラ・メディアホールディングスの株をうちが2%所有する。これで向こう側に勝てるわ。臨時株主総会では旧経営陣に対して全員の解任を要求する。過半数の株をおさえているから旧経営陣を一人残らず追い出せる。同時にこちら側から二人を取締役に推薦する。一人は香苗さん、もう一人は高谷。香苗さんにはサクラテレビの社長になってもらう。高谷はサクラ・メディアホールディングスの取締役」
「こちら側の裏にハゲタカがいるのか?」
「ハゲタカっていつの時代の言葉よ」
「僕は古い人間だよ」
「証券を含めた現預金を六千億、不動産を入れると一兆三千億円の資産を持っている会社を自由に動かすことができるのよ。この話にのらないバカはいないわ」
「2%くらいの株しかないんだ、その程度でサクラを動かすことはできない」
「もちろんそうよ。でも我が社には一つも傷がつかない。それどころか世間でバッシングされてるサクラの救世主になれるわ。伊藤君だってサクラが持ってる映像や音楽のコンテンツには興味があるでしょ?」
「僕は作ることに興味があるんだ」
「あー面倒くさい人。金儲けに興味がない経営者なんて最低」
「最低で結構」
「我が社は上場企業なのよ。お金が儲からなかったら我が社の株主が黙ってないわよ」
「僕も株主だが」
「その株を貸してほしい」
小さな裕子の声だった。
「……」
「冗談じゃない。うちの会社にそんな金はない」
「あるわよ」
「仮にあったとしてもそれはテレビ局を買収するためのものではない。その金は」
「綺麗ごとばっかりじゃこの世界生きていけないのよ。それに買収じゃないの」
「どういう意味だ?」
「芝居だけやっていれば会社が大きくなると思ってるの? それこそ冗談じゃないわよ」
副社長の橘は一歩も譲らない。強い調子で伊藤にそう言った。
「僕はもう社長じゃない」
「そう、伊藤君は取締役会長で会社の筆頭株主」
「だから?」
「稟議に回しても頭を縦に振らない人間が二人いるの。誰だかわかるわよね?」
「香苗と僕か?」
「その通り」
「橘、もう僕を舞台から下ろしてくれ」
「いいわよ。この件が済んだら」
「はぁ」
伊藤の口から深いため息が出た。
「ため息なんかついてる場合じゃないわ。狙ってるのはうちだけじゃないのよ」
裕子のその言葉で伊藤はどのくらい話が進んでいるのかわかった。
「橘、全部話せ」
「サクラ・メディアホールディングスの株をうちが2%所有する。これで向こう側に勝てるわ。臨時株主総会では旧経営陣に対して全員の解任を要求する。過半数の株をおさえているから旧経営陣を一人残らず追い出せる。同時にこちら側から二人を取締役に推薦する。一人は香苗さん、もう一人は高谷。香苗さんにはサクラテレビの社長になってもらう。高谷はサクラ・メディアホールディングスの取締役」
「こちら側の裏にハゲタカがいるのか?」
「ハゲタカっていつの時代の言葉よ」
「僕は古い人間だよ」
「証券を含めた現預金を六千億、不動産を入れると一兆三千億円の資産を持っている会社を自由に動かすことができるのよ。この話にのらないバカはいないわ」
「2%くらいの株しかないんだ、その程度でサクラを動かすことはできない」
「もちろんそうよ。でも我が社には一つも傷がつかない。それどころか世間でバッシングされてるサクラの救世主になれるわ。伊藤君だってサクラが持ってる映像や音楽のコンテンツには興味があるでしょ?」
「僕は作ることに興味があるんだ」
「あー面倒くさい人。金儲けに興味がない経営者なんて最低」
「最低で結構」
「我が社は上場企業なのよ。お金が儲からなかったら我が社の株主が黙ってないわよ」
「僕も株主だが」
「その株を貸してほしい」
小さな裕子の声だった。
「……」

