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千一夜
第27章 第四夜 線状降水帯 ⑪

「勝てそうなのか?」
「心配?」
「当たり前だ。サクラの株なんて業界の仁義で数万株しか持っていなかったんだ。橘も知っているだろうが、総会があれば今まで会社提案に賛成していた。それが発行株式の2%を取得するとなると」
「怖いの?」
「怖い……か。確かにクソみたいなやつらはいたよ。でもサクラのお蔭でドママも何本か作った。稼がせてもらったよ。僕の会社がここまでになれたのも」
「古い!伊藤君はものすごく古い。稼がせてもらったから何よ。番組を制作したらお金を頂くって当然じゃない。伊藤君が言うクソが蔓延っていたからサクラはダメになったのよ。だから私たちがサクラを立て直す。サクラを真っ当な企業にするの」
「……」
伊藤は天井の一点を見つめていた。今伊藤の会社を動かしているのは裕子だ。
勝つ方のグループに入る。2%の株は新しく生まれ変わるだろう? サクラでのポストを手に入れるためのチケットなのだ。チケットがなければサクラの社屋に入場することはできない。
「伊藤君、私は自分の命をかけるわ」
「命?」
伊藤はドキリとして裕子の顔を覗いた。
「勘違いしないで、サクラのことじゃないの」
「……」
「神様から授かったこの子のために私は命をかける」
そう言うと裕子は自分のお腹を撫でた。
「大丈夫か?」
「この子のためのスケジュールはもう決まっているわ。伊藤君の子供を宿すことができたの。だから私は自分の命をかける」
「簡単に命をかけるなんて言うな」
「私は私よりもこの子が大事なの!」
「僕は裕子が大事だ!」
裕子の大きな声に伊藤は自分も声を大きくしてそう言った。
「伊藤君、ルール違反よ」
「悪い」
伊藤と裕子の間には守らなければならないルールがあった。それは二人の関係を悟られないように、たとえベッドの中でも呼び合うときは互いの名字で呼び合うという決まりだった。
「絶対に大丈夫。元気な赤ちゃんを産むわ」
「……」
裕子から妊娠を聞かされた伊藤は、驚くよりも裕子の体のことの方が気になった。間違いなく裕子は産むと言うだろう。伊藤が心配なのは四十を越えた裕子の体だった。
「私幸せよ」
「橘」
「何?」
「僕の株を好きに使え。何なら僕所有の不動産も現金も全部使え。橘は命をかけると言った。僕も命をかける。僕は無一文になっても構わない。そうなったらまたそこから芝居を作るさ」
「ありがとう」
「心配?」
「当たり前だ。サクラの株なんて業界の仁義で数万株しか持っていなかったんだ。橘も知っているだろうが、総会があれば今まで会社提案に賛成していた。それが発行株式の2%を取得するとなると」
「怖いの?」
「怖い……か。確かにクソみたいなやつらはいたよ。でもサクラのお蔭でドママも何本か作った。稼がせてもらったよ。僕の会社がここまでになれたのも」
「古い!伊藤君はものすごく古い。稼がせてもらったから何よ。番組を制作したらお金を頂くって当然じゃない。伊藤君が言うクソが蔓延っていたからサクラはダメになったのよ。だから私たちがサクラを立て直す。サクラを真っ当な企業にするの」
「……」
伊藤は天井の一点を見つめていた。今伊藤の会社を動かしているのは裕子だ。
勝つ方のグループに入る。2%の株は新しく生まれ変わるだろう? サクラでのポストを手に入れるためのチケットなのだ。チケットがなければサクラの社屋に入場することはできない。
「伊藤君、私は自分の命をかけるわ」
「命?」
伊藤はドキリとして裕子の顔を覗いた。
「勘違いしないで、サクラのことじゃないの」
「……」
「神様から授かったこの子のために私は命をかける」
そう言うと裕子は自分のお腹を撫でた。
「大丈夫か?」
「この子のためのスケジュールはもう決まっているわ。伊藤君の子供を宿すことができたの。だから私は自分の命をかける」
「簡単に命をかけるなんて言うな」
「私は私よりもこの子が大事なの!」
「僕は裕子が大事だ!」
裕子の大きな声に伊藤は自分も声を大きくしてそう言った。
「伊藤君、ルール違反よ」
「悪い」
伊藤と裕子の間には守らなければならないルールがあった。それは二人の関係を悟られないように、たとえベッドの中でも呼び合うときは互いの名字で呼び合うという決まりだった。
「絶対に大丈夫。元気な赤ちゃんを産むわ」
「……」
裕子から妊娠を聞かされた伊藤は、驚くよりも裕子の体のことの方が気になった。間違いなく裕子は産むと言うだろう。伊藤が心配なのは四十を越えた裕子の体だった。
「私幸せよ」
「橘」
「何?」
「僕の株を好きに使え。何なら僕所有の不動産も現金も全部使え。橘は命をかけると言った。僕も命をかける。僕は無一文になっても構わない。そうなったらまたそこから芝居を作るさ」
「ありがとう」

