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千一夜
第28章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ①

「今回は僕が払う」
「ありがとうございます!お兄様~!……えっ? 払うってお兄ちゃんの旅館でしょ? なんでお兄ちゃんが払わないといけないの?」
「僕が経営している旅館だからと言って支払う必要がないわけではない。はぁ~、お前は本当にバカだ」
「自分の旅館なのに支払うお兄ちゃんの方がバカでしょ?」
「僕は今日大切なことに気付いた。いや、もっと前に気付くべきだった」
「何を気付いたのよ?」
「お前と話していることがそもそも無駄だと言うことだ」
「失礼ね、バカ兄貴」
「だったらお前が払うか?」
「すみませんでしたお兄様。ごちそうさまでした!」
「電話を切る前にお前に言っておく。休日前の高級料理旅館の宿泊費は高いんだ。そのくらいお前も知っているよな? うちの旅館の貴賓室なら四人で四十四万円、お前の家族はその部屋で二泊した。ワインリストはすべて日本語で書いてある。知らなかったでは済まさないからな。よく覚えておけ」
「了解で~す」
「お前の了解ほど当てにならないものはない。これからお前がうちの旅館に宿泊するときはカードか現金で払え。ちなみにうちの旅館は無料宿泊券などないからな。そうだ、僕の会社の社員割引が使えるようにしてやる。宿泊料金が半額になるぞ。ただしワインはワインリストに書かれている金額を支払ってもらう」
「90%オフとかダメ?」
「どうやらお前は僕の旅館に宿泊する資格がないようだ」
「資格って何よ! いちいち偉そうにまじでむかつく!」
「ふん。訊きたいことが一つある」
「何でしょうか? いつも偉そうなお兄様」
「どうやって休日前の貴賓室を取ることができたんだ? うちの旅館は連日満室なのにどうしてお前の家族が一番高い部屋を取れたのか不思議なんだ」
「怒らない?」
「……」
怒らない? という妹の言葉で伊藤はわかった。
「お兄様の」
「僕の名前を使ったわけだ」
「申し訳ございませんでした。もう二度とお兄様の旅館には参りません!」
「その言葉忘れるなよ」
「バカ兄貴!」
そう言って伊藤の妹は電話を切った。
部屋に戻って希を抱く。伊藤がテーブルの上の書類を持って立ち上がろうとしたときだった。またスマホが着信音を鳴らした。
スマホの画面に伊藤が知らない番号が表示されている。伊藤の電話番号を知っている人間は多くはない。間違い電話だろうか。伊藤が電話に出た。
「ありがとうございます!お兄様~!……えっ? 払うってお兄ちゃんの旅館でしょ? なんでお兄ちゃんが払わないといけないの?」
「僕が経営している旅館だからと言って支払う必要がないわけではない。はぁ~、お前は本当にバカだ」
「自分の旅館なのに支払うお兄ちゃんの方がバカでしょ?」
「僕は今日大切なことに気付いた。いや、もっと前に気付くべきだった」
「何を気付いたのよ?」
「お前と話していることがそもそも無駄だと言うことだ」
「失礼ね、バカ兄貴」
「だったらお前が払うか?」
「すみませんでしたお兄様。ごちそうさまでした!」
「電話を切る前にお前に言っておく。休日前の高級料理旅館の宿泊費は高いんだ。そのくらいお前も知っているよな? うちの旅館の貴賓室なら四人で四十四万円、お前の家族はその部屋で二泊した。ワインリストはすべて日本語で書いてある。知らなかったでは済まさないからな。よく覚えておけ」
「了解で~す」
「お前の了解ほど当てにならないものはない。これからお前がうちの旅館に宿泊するときはカードか現金で払え。ちなみにうちの旅館は無料宿泊券などないからな。そうだ、僕の会社の社員割引が使えるようにしてやる。宿泊料金が半額になるぞ。ただしワインはワインリストに書かれている金額を支払ってもらう」
「90%オフとかダメ?」
「どうやらお前は僕の旅館に宿泊する資格がないようだ」
「資格って何よ! いちいち偉そうにまじでむかつく!」
「ふん。訊きたいことが一つある」
「何でしょうか? いつも偉そうなお兄様」
「どうやって休日前の貴賓室を取ることができたんだ? うちの旅館は連日満室なのにどうしてお前の家族が一番高い部屋を取れたのか不思議なんだ」
「怒らない?」
「……」
怒らない? という妹の言葉で伊藤はわかった。
「お兄様の」
「僕の名前を使ったわけだ」
「申し訳ございませんでした。もう二度とお兄様の旅館には参りません!」
「その言葉忘れるなよ」
「バカ兄貴!」
そう言って伊藤の妹は電話を切った。
部屋に戻って希を抱く。伊藤がテーブルの上の書類を持って立ち上がろうとしたときだった。またスマホが着信音を鳴らした。
スマホの画面に伊藤が知らない番号が表示されている。伊藤の電話番号を知っている人間は多くはない。間違い電話だろうか。伊藤が電話に出た。

