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千一夜
第28章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ①
「はい」とだけ伊藤は答えた。伊藤は敢えて自分の名前を言わなかった。
「伊藤さんの携帯で間違いないでしょうか?」
 女の声だった。自分のことを「伊藤さん」と呼ぶ人間は限られている。そして電話の女は伊藤の休日ルールを知らない。知っていて伊藤に電話を掛ける大バカ者はいない。伊藤は電話の女を探ることにした。
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
「黒瀬と申します」
「黒瀬さん?」
 黒瀬と言う名前に伊藤は心当たりがなかった。
「黒瀬ユアです。ご存じないでしょうか?」
 自分を知らないかと訊ねてくる女は珍しい。世間に認知されているという自信があるから出てくる台詞だ。しかし伊藤は黒瀬ユアと言う女に心当たりがなかった。
「業界の方? どこかで芝居をしてるとか?」 
 黒瀬ユア、何となくだが伊藤にはその名前が芸名のように思えた。
「芝居は……少しだけ」
「どういうこと?」
 役者だったら芝居を少しだけとは言わない。
「……」
 女は黙った。
「テレビに出てるタレントさん?」
 電話の向こうの女が「そうだ」と言ったら伊藤は電話を切るつもりでいた。
「テレビに出たことはあります。でもそれは大昔のことです」
「大昔……」
「……」
 大昔にテレビに出たことがある。だからもう一度テレビに出してくれ。そう言う願いなのだろうか。伊藤はうんざりしてきた。休日の貴重な時間がつまらない電話でつぶされていく。
「君は何か勘違いをしてると思う。申し訳ないが僕にはそういう力はない。テレビに出たいのであれば他の人間を当たったほうがいい」
「ふふふ」
「……」
 不思議な女だと伊藤は思った。
「伊藤さんは本当に私のことを知らないんですね?」
「僕が君のことを知っていてるのにわざと知らないふりをしてるとでも」
「ふふふ」
「君の予想を裏切るようで悪いが、僕は本当に君のことを知らない。間違っていたら許していほしい。君は僕を試しているのか? もしそうなら不愉快だ。はっきり言う。君に僕の時間をつぶされたくない。これで切るがもう二度と電話をかけてこないでくれ。誰かかが君に僕の電話番号を教えたのだろう。僕はその誰かを君には訊かない。でもその誰かに伝えて欲しい。二度と僕に関わるなと」
「社長、すみませんでした」
「……」
 伊藤さんではなく、女は伊藤を社長と呼んだ。話の本題はおそらくこれからなのだろう。
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