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千一夜
第28章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ①
「実は社長に買って欲しいものがあるんです」
「買って欲しいもの?」
「はい」
「君は……黒瀬さん、君が抱いている微かな期待に僕は応えられない。その買って欲しいものは僕以外の誰かにすすめればいい。僕は今欲しいものはない」
「社長の舞台を観劇させていただきました」
 黒瀬ユアは話を変えた。
「それはどうも」
「素晴らしい舞台でした」
「どういうところが素晴らしいと思ったのか聞かせてもらいたいんだが」
 伊藤はユアを試した。口先だけのお世辞ならすぐ見抜く。
「ストーリーと役者さんの芝居と言ったら伊藤さんは不満ですか?」
「別に。黒瀬さんは演劇の評論家じゃないだろ」
 予想通りの答えに伊藤はがっかりした。
「社長が作るあの芝居にはなぜか隙のようなものが一つもありませんでした。完璧です。本、キャスティング、演出、非の打ちどころがありませんでした。役者が着ている衣装も社長が決めたとか」
「雑誌で読んだようだね」
 伊藤は舞台についてある雑誌からインタビューを受けていた。
「もちろんです」
「ひょっとして君の感想は僕の舞台ではなく雑誌に書かれた記事の感想なのか?」
「ふふふ、違います」
「……」
 妙な女だと伊藤は思った。
「私が舞台を拝見させていただいた席は前から三列目の席でした。だから役者さんの衣装や身に着けている小物まではっきり見ることができたんです」
「それで」
「役者さんの左手の薬指にはリングがありませんでした。おそらく結婚していない設定だと思います。役者さんのお歳もほぼ社長と同じ。役者さんは社長を演じていたのです。そうではありませんか?」
「……」
 伊藤はごくりと唾を飲み込んだ。見られてはいけないものを見知らぬ誰かに見られた感じがした。
「ふふふ、どうやら当たりのようですね」
「……」
 次にユアは何を言うのだろうか。伊藤はそのことが気になった。
「役者さんの左の手首に腕時計が巻かれているのが見えました。とても気になりました」
「腕時計が?」
「はい。成功した男ってどういう時計をしているのだろうか? パティック? それともバセロン? 伊藤さんはロレックスなんかしないだろう」
「で、わかったのか?」
「いいえ。でも雑誌を拝見させていただいてわかりました」
「僕がその時計を巻いていた」
「はい」
「セイコーロードマーベル36000」
「素敵な腕時計です」
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