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千一夜
第28章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ①
「君は腕時計を売るために電話しているのか?」
「ふふふ。いいえ違います」
「……」
 一体ユアは何を自分に求めているのだろうか。伊藤にはユアの心の中がよめなかった。
「仕事ができる人はセンスがいいと言うことが言いたかったんです。おそらく社長は腕時計の収集家ではないでしょう。社長が集めておられるのはジャズの名盤とバーボン」
「雑誌にそう書いてあったのか?」
「はい」
「芝居に興味を持ってもらうことはありがたいことだと思っている。でも僕になんか関心を持たないで欲しい。僕は四十を超えたおっさんだ。そんなおっさんに興味を持つなんて時間の無駄だ」
 伊藤は敢えて自虐的な言い方をした。そしてそれは伊藤の本音でもあった。
「雑誌のインタビューでは社長はこうも言っておられます『服は代官山にあるHRMで買いそろえる。昔からそうだったし、服を探して歩くより仕事に時間をかけたい。もちろんHRMの服は僕のお気に入りだ』と。白いTシャツの上にグレーのカーディガン、パンツはグリーンのフィールドパンツ。スニーカーはスティールブルーのニューバランス1400。左手首にセイコーロードマーベル36000がちらりと見えています」
「君は今雑誌を見ているのか?」
「すみません。掲載されている社長の写真を拝見しています」
「ふん」
「おそらくこの雑誌を見た多くの中年男子は、社長の真似をしたことだと思います。才能のある人間はどんな服装をしているのか? どんな趣味を持っているのか? 気にならない人はいません。立ち上げた会社を短期間で上場させた天才の隅から隅までがお手本になるのです」
「雑誌には書かれていないことを君に教える。僕の会社の幹部にスタイリストがいるんだが、そいつは僕の格好を見るといつも小馬鹿にしたように笑う。申し訳ないが、僕は君より服のプロの感性を信じるよ。ただ、一つだけ言えることがある。誰でも好きなものを着て好きなものを身に着ける。そういう姿勢は生きる上でとても大事なことだと思う。たとえそれがパーカーであってもだ」
「参考になります」
「悪いがもう休みたい。君とのファッション談義は楽しかったよ。これからは僕が作る芝居や僕の会社が制作する映像を楽しんで欲しい。そして君にお願いしたいことがある。もう僕に電話をかけてこないでくれ。頼む」
「……社長、私を買ってください」
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