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千一夜
第29章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ②

伊藤は、光の世界で会ったゆかりにも「パパ」と呼ばれた。言うまでもなく、ゆかりが言う「パパ」と希が伊藤を呼ぶときの「パパ」とでは意味合いが全く違う。
生まれた娘は可愛いし、産んでくれた希にも伊藤は感謝している。伊藤は自分が「パパ」と呼ばれることを不思議に感じていた。「パパ」なんて言葉自分には似合わない。だが時間が積み重なっていくと、伊藤からその奇妙な感覚は消えてなくなってしまった。「パパ」と呼ばれることが、伊藤には当たり前になっていったのだ。
女遊びをやめるつもりなどないが、伊藤は希のことを愛おしく思うようになっていた。だからこそ伊藤はの昔の希を見てみたかった。自分の知らない希。深淵の中で希に起こった出来事。芽吹く前の希の体を知っている男、あるいは男たち。間違いなく自分はそいつらに嫉妬している。伊藤の心がぶるぶる震えた。
真っ黒な世界から伊藤は希の手を引く。希は少しだけ笑って囁き始める。いつもの小さな声で「あのね」と話し始めるのだ。希の秘密をまた一つ手に入れることができる。伊藤の胸の鼓動が少し速くなる。
希が過去を話すとき、伊藤はいつも希をうつ伏せにして、希の体に自分の体を希に重ねる。希を逃がさないようにして希の秘密を聞き出す。伊藤のそれは、刑事が被疑者に対して行う取り調べとは少しだけ違う。伊藤は希の嘘を許す。ただしその嘘は事実の延長線上になければならない。
希はどう話を盛れば伊藤が悦ぶのか、伊藤に抱かれながらいつも考えていた。原作は自分の体験。あとはそれをどう脚色するかだ。そこが勝負になる。
「あのときの監督、マニアだったの」
希がそう話し出す。
「何のマニアだ?」
伊藤は希の耳元で希にそう訊ねた。
「わ・れ・め」
わざとアクセントをつけて希はそう言った。
「ガキのま×このことか?」
「うん」
はい、と答えても伊藤は悦ばない。希は中学生の頃に戻って「うん」と答えた。
「その監督、ロリコンなのか?」
「絶対にロリだと思う」
「どうしてそう思うんだ」
「監督の目」
「目……どういうことだ?」
「聞きたい?」
伊藤を焦らす。
「言え」
「監督の目があそこから離れないから」
「あそこって」
「お・〇・ん・こ」
希が女性器の名称を言ったとき、背中から伊藤の心臓が激しく動くのが伝わった。希はにんまりと笑った。それは伊藤が落ちた瞬間だった。
生まれた娘は可愛いし、産んでくれた希にも伊藤は感謝している。伊藤は自分が「パパ」と呼ばれることを不思議に感じていた。「パパ」なんて言葉自分には似合わない。だが時間が積み重なっていくと、伊藤からその奇妙な感覚は消えてなくなってしまった。「パパ」と呼ばれることが、伊藤には当たり前になっていったのだ。
女遊びをやめるつもりなどないが、伊藤は希のことを愛おしく思うようになっていた。だからこそ伊藤はの昔の希を見てみたかった。自分の知らない希。深淵の中で希に起こった出来事。芽吹く前の希の体を知っている男、あるいは男たち。間違いなく自分はそいつらに嫉妬している。伊藤の心がぶるぶる震えた。
真っ黒な世界から伊藤は希の手を引く。希は少しだけ笑って囁き始める。いつもの小さな声で「あのね」と話し始めるのだ。希の秘密をまた一つ手に入れることができる。伊藤の胸の鼓動が少し速くなる。
希が過去を話すとき、伊藤はいつも希をうつ伏せにして、希の体に自分の体を希に重ねる。希を逃がさないようにして希の秘密を聞き出す。伊藤のそれは、刑事が被疑者に対して行う取り調べとは少しだけ違う。伊藤は希の嘘を許す。ただしその嘘は事実の延長線上になければならない。
希はどう話を盛れば伊藤が悦ぶのか、伊藤に抱かれながらいつも考えていた。原作は自分の体験。あとはそれをどう脚色するかだ。そこが勝負になる。
「あのときの監督、マニアだったの」
希がそう話し出す。
「何のマニアだ?」
伊藤は希の耳元で希にそう訊ねた。
「わ・れ・め」
わざとアクセントをつけて希はそう言った。
「ガキのま×このことか?」
「うん」
はい、と答えても伊藤は悦ばない。希は中学生の頃に戻って「うん」と答えた。
「その監督、ロリコンなのか?」
「絶対にロリだと思う」
「どうしてそう思うんだ」
「監督の目」
「目……どういうことだ?」
「聞きたい?」
伊藤を焦らす。
「言え」
「監督の目があそこから離れないから」
「あそこって」
「お・〇・ん・こ」
希が女性器の名称を言ったとき、背中から伊藤の心臓が激しく動くのが伝わった。希はにんまりと笑った。それは伊藤が落ちた瞬間だった。

