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千一夜
第29章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ②

空白が希を恐怖の底に押し込もうとしていた。空白とは時間が静止することだ。前にも後ろにも時間が進むことはない。希は男によって空白の中に閉じ込められた。
真っ白の画用紙の中。希は一人の男のことを思った。当時、希は一学年上の上級生に恋をした。それは希の初恋だった。
できることならその上級生とキスをしたい。もしその上級生が望むのなら、セックスをしても構わない。残念がらその上級生からのアプローチは一度もなかった。でもいつか勇気を出して自分から告白しようと希は思っていた。
この空間にその上級生がいたなら……。だから希は必死になってその上級生のことを考えた。今自分に起こっていることは、その上級生が求めていることだ、と自分を無理やり説得した。
そのときだった。上級生ではない男が、希の足首を掴んだ。希はびくりとした。足首を掴んだ男は次に何をするのだろうか。不安がどんどん重なっていく。
男は希の足首を掴んで、希の両脚がM字になるように立てたのだ。そして男はこう言った。
「希ちゃん、おしっこ漏らしちゃったね。シーツが汚れたじゃないか。どうしてくれるの。でもいいよ。黙っててやるからね」
「……」
「希ちゃん、黙っててやると言ってるんだよ。ありがとうくらい言いなさい」
「ありがとうございます」
ひくひく泣きながら希はそう答えた。
「希ちゃん、このままの格好でいてね。希ちゃんが汚くしたシーツを綺麗にするからこのままじっとしているんだよ」
「……」
「返事!」
「はい」
希は男の大きな声に驚いた。
シーツの上に希が漏らしたおしっこを男がタオルで拭いていいる。希は少し前から目を開けていた。男は希が目を開けても咎めなかった。
涙で滲むフィルムの中で男はずっとシーツを拭いていた。目を開けても目を閉じても地獄の風景は希の頭の中から消えない。
「終わったよ」
「ありがとうございます」
「希ちゃんは本当にいい子だね」
「ありがとうございます」
逆らわなければ時間は止まらない。従順であり続ければ、時間を少しでも前にすすめることができる。
「希ちゃん、少し困ったことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
希は男が言う困ったことが気になった。
「言っていいかな?」
「はい」
「まだ汚いところがあるんだ。希ちゃん、どうすればいいかな?」
「……」
希の体から力が抜けていった。
真っ白の画用紙の中。希は一人の男のことを思った。当時、希は一学年上の上級生に恋をした。それは希の初恋だった。
できることならその上級生とキスをしたい。もしその上級生が望むのなら、セックスをしても構わない。残念がらその上級生からのアプローチは一度もなかった。でもいつか勇気を出して自分から告白しようと希は思っていた。
この空間にその上級生がいたなら……。だから希は必死になってその上級生のことを考えた。今自分に起こっていることは、その上級生が求めていることだ、と自分を無理やり説得した。
そのときだった。上級生ではない男が、希の足首を掴んだ。希はびくりとした。足首を掴んだ男は次に何をするのだろうか。不安がどんどん重なっていく。
男は希の足首を掴んで、希の両脚がM字になるように立てたのだ。そして男はこう言った。
「希ちゃん、おしっこ漏らしちゃったね。シーツが汚れたじゃないか。どうしてくれるの。でもいいよ。黙っててやるからね」
「……」
「希ちゃん、黙っててやると言ってるんだよ。ありがとうくらい言いなさい」
「ありがとうございます」
ひくひく泣きながら希はそう答えた。
「希ちゃん、このままの格好でいてね。希ちゃんが汚くしたシーツを綺麗にするからこのままじっとしているんだよ」
「……」
「返事!」
「はい」
希は男の大きな声に驚いた。
シーツの上に希が漏らしたおしっこを男がタオルで拭いていいる。希は少し前から目を開けていた。男は希が目を開けても咎めなかった。
涙で滲むフィルムの中で男はずっとシーツを拭いていた。目を開けても目を閉じても地獄の風景は希の頭の中から消えない。
「終わったよ」
「ありがとうございます」
「希ちゃんは本当にいい子だね」
「ありがとうございます」
逆らわなければ時間は止まらない。従順であり続ければ、時間を少しでも前にすすめることができる。
「希ちゃん、少し困ったことがあるんだけど」
「何でしょうか?」
希は男が言う困ったことが気になった。
「言っていいかな?」
「はい」
「まだ汚いところがあるんだ。希ちゃん、どうすればいいかな?」
「……」
希の体から力が抜けていった。

