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千一夜
第30章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ③

「君に訊ねたいことがあるんだが」
「何ですか?」
「もし僕が金を出さなかっらどうするつもりだったんだ?」
「……」
ユアが逡巡する。答えたくないのではなくて、どう話せばいいのかを心の中で整理していいたのだ。
「ここは日本だ。君には黙秘権がある。言いたくないことだってあるだろう。だから言いたくないことは言わなくていい」
「伊藤さんはすべてを知る権利があります。私にはそれを話す義務がある」
「権利と義務か」
「怒らないでくださいね」
「もちろん」
「自信がありました」
「自信? それは僕が君にお金を払うということ?」
「正確に言うとそうではありません」
「正確に言ってくれ」
「伊藤さんは必ず私のことを信じてくれる、という自信です。だから私は必ず伊藤さんに選ばれる」
「根拠は? 僕が君を信じるという根拠は何なんだ?」
「そこが難しいんです。例えばそういう勘がしたと言っても伊藤さんにはわかってもらえないだろうし、だったらその勘の根拠は? なんて言われても説明できないし」
「勘……か」
「私、どこか伊藤さんの奥さんに似ていませんか?」
「僕は結婚してないけど」
「ごめんなさい」
「君に一つだけ守ってほしいことがある。ベッドの中では他の女のことは言わないでくれ。これはルールだ」
「本当にごめんなさい」
今ここで伊藤の機嫌を損ねてはいけない。ユアは心から伊藤に謝った。
「ところで君は才能という言葉を使った。ということは僕の舞台以外に、僕が作った作品を知っているのか?」
「伊藤さんが書かれた小説を読みました。伊藤さんの映画も拝見しました」
「全部じゃないよね?」
「残念ながら小説は三冊、映画はDVDを買って見ました」
「どうだった?」
伊藤がユアの様子を探る。
「必死になってもがいている伊藤さんを知りました」
「もがいている? 僕が? どういう意味だ?」
「きっと伊藤さんには憧れの作家さんがいるんでしょう。その作家さんに追いつきたい。でも影すら踏めない」
「それで」
「経営者になって、映画や舞台のことを二十四時間考えられなくなってしまった。こんなことなら上場なんてするんじゃなかった。と思われているんじゃないですか?」
「ははは」
伊藤は久しぶりに腹の底から笑った。
「ごめんなさい」
「どうやら君は、僕の小説や映画だけでなく雑誌も読んでいるようだね」
「ふふふ」
「何ですか?」
「もし僕が金を出さなかっらどうするつもりだったんだ?」
「……」
ユアが逡巡する。答えたくないのではなくて、どう話せばいいのかを心の中で整理していいたのだ。
「ここは日本だ。君には黙秘権がある。言いたくないことだってあるだろう。だから言いたくないことは言わなくていい」
「伊藤さんはすべてを知る権利があります。私にはそれを話す義務がある」
「権利と義務か」
「怒らないでくださいね」
「もちろん」
「自信がありました」
「自信? それは僕が君にお金を払うということ?」
「正確に言うとそうではありません」
「正確に言ってくれ」
「伊藤さんは必ず私のことを信じてくれる、という自信です。だから私は必ず伊藤さんに選ばれる」
「根拠は? 僕が君を信じるという根拠は何なんだ?」
「そこが難しいんです。例えばそういう勘がしたと言っても伊藤さんにはわかってもらえないだろうし、だったらその勘の根拠は? なんて言われても説明できないし」
「勘……か」
「私、どこか伊藤さんの奥さんに似ていませんか?」
「僕は結婚してないけど」
「ごめんなさい」
「君に一つだけ守ってほしいことがある。ベッドの中では他の女のことは言わないでくれ。これはルールだ」
「本当にごめんなさい」
今ここで伊藤の機嫌を損ねてはいけない。ユアは心から伊藤に謝った。
「ところで君は才能という言葉を使った。ということは僕の舞台以外に、僕が作った作品を知っているのか?」
「伊藤さんが書かれた小説を読みました。伊藤さんの映画も拝見しました」
「全部じゃないよね?」
「残念ながら小説は三冊、映画はDVDを買って見ました」
「どうだった?」
伊藤がユアの様子を探る。
「必死になってもがいている伊藤さんを知りました」
「もがいている? 僕が? どういう意味だ?」
「きっと伊藤さんには憧れの作家さんがいるんでしょう。その作家さんに追いつきたい。でも影すら踏めない」
「それで」
「経営者になって、映画や舞台のことを二十四時間考えられなくなってしまった。こんなことなら上場なんてするんじゃなかった。と思われているんじゃないですか?」
「ははは」
伊藤は久しぶりに腹の底から笑った。
「ごめんなさい」
「どうやら君は、僕の小説や映画だけでなく雑誌も読んでいるようだね」
「ふふふ」

