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千一夜
第30章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ③
「君は二十四時間映画のことを考えている役者を知っているか?」
「二十四時間……ですか?」
「そうだ。つまり一日中ずっと映画のことを考えていることになる」
「知りません。そう言う役者さんがいるということを誰かから聞いたこともありません」
「だよな」
「そんな人いるんですか?」
「いたよ」
「いた?」
「そう、いたんだよ」
「ということは、今はいないということですか?」
「そうだ。今はいない」
「その役者さんのお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「……」
 伊藤は黙った。
 だが、ユアにはわかった。伊藤はユアに役者の名前を教えるのを躊躇って黙っているのではない。今、伊藤の頭の中にあるスクリーンにその役者が演じたシーンが映されている。その場面から伊藤は目が離せないのだ。
「松田優作さんだ」
「松田優作?」
「一度でいいから優作さんと仕事がしたかった。きっと優作さんは僕を叱っただろうな『それでも監督か!このへぼ監督!』ってね」
「伊藤さんを叱るんですか?」
「ああ。説教されまくるだろうな。『いつから芝居より銭勘定が大事になったんだ!』って怒鳴られる。確かに今の僕は、芝居より銭勘定の方に足が向いている。社員とその家族、そして株主のためにって言い訳を用意して毎日会議に出ているんだ。ふっと空しくなることがある。そんなとき、大藪先生の作品や優作さんの芝居が僕の頭に浮かぶんだ。すると自分が小さく見える。そんな僕のどこに才能なんてあるんだ?」
 違う。間違いなく伊藤は天才だ。伊藤は大藪作品や松田優作の芝居に憧れているだけではない。伊藤は自分と戦っている。そして必死にもがいている。負けを認めながらもどこかに勝つ道がないかと探し続けている。伊藤を選んだ自分に間違いはなかった。ユアは伊藤の話を聞きながら強くそう思った。
「君には大して面白くない話だったな、申し訳ない」
「面白かったですよ」
「本当か?」
「はい。私は伊藤さんのことは何でも知っておきたいんです」
 やっぱりあなたは天才だ、と言いたかったがユアは我慢した。
「大切なことを忘れてたよ」
「何ですか?」
「ここにも女優がいた」
「ふふふ。私演技なんてできませんよ」
「演技なんて必要ないさ。必要なのは本当の君の姿だ」
 伊藤はそう言ってユアにキスをした。
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