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千一夜
第33章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ⑥
「伊藤、ちょっと焦ったでしょ?」
「僕のことなんか覚えていてくれたんですか?」
「わたしのことバカにしてるの?」
「あの頃の僕は、右も左もわからないペーペーでした」
「そのペーペーがセットの隅から私の演技をじっと見てたの。監督よりも伊藤の目の方が怖かったわ。その演技ちょっと違うんじゃないかっていう伊藤の目」
「所詮若造の目です」
「その若造が今では大会社の社長でしょ。むかつく変なやつだとは思っていたけど、こんなに偉くなるなんて想像できなかったわ」 
「社長がみんな偉いとは限りません」
「ああ言えばこう言う。伊藤って昔と変わっていないかもしれないわ」
「変わりましたよ」
「伊藤、伊藤はもう芝居とか作らないの?」
「作ってますよ」
「違うわよ。社長の椅子に座る伊藤じゃなくて、ディレクターチェアに座る伊藤のこと」
「うん~ん」
 伊藤は小さく唸った。
「どうなの?」
「倉田さん、オフレコですよ」
「私を信じていないの?」
 カレンはそう言って伊藤をじろりと睨んだ。
「どうやら僕はあと十年社長室から出られないみたいです」
「十年?」
「はい、十年です」
「私、おばあちゃんになってるんですけど」
「とんでもない。倉田さんは十年後も美しいです。断言できます」
「あまりうれしくないけど」
「倉田さんの十年後の演技を僕は見てみたい」 
「だったら伊藤、約束してくれる? 十年後の伊藤の芝居に私を使ってほしい。私の願いは叶えられる?」
「約束します」
 伊藤はきっぱりとそう言った。
「約束破ったら全部ばらすから」
「どうぞ」
「まじでばらすわよ」
「ははは。倉田さんには言論と表現の自由があります」
「伊藤、それ食べていい?」
 カレンは伊藤が手を付けていないメロンといちごを指してそう言った。
「召し上がってください」
 伊藤は自分のメロンといちごがのった器をカレンの前に置いた。
「伊藤、飲み足りないんだけど」
 カレンはメロンを咀嚼しながら伊藤にそう伝えた。
「わかりました。今店を手配します」
 伊藤はそう言ってスマホを手に取った。
「いいわよここで。もうどこにも出かけたくないわ」
「承知しましました。倉田さんは何をお飲みになられますか?」
「ビールでもないし日本酒でもない。それに今ウイスキーという気分じゃないの」
「では何を?」
「そうね、冷えたティオペペあるかしら?」
「……」
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