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千一夜
第30章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ③
「監督、もう一度君に訊ねたいことがある」
「何ですか?」
「万が一、君の勘が外れて、僕が君にお金を出さなかったら、君はどうするつもりだったんだ?」
「ふふふ」
「笑って誤魔化すのはなしだ」
「訊きたいですか?」
「もちろんだ」
「……」
 ユアはどう答えればいいのか考えた。言葉を濁して逃げ切ることなどできない。伊藤には本当の事を言う。ユアは覚悟した。
「悪かった。言いたくないことは言わなくていいよ」
 伊藤は、自分の乳首と肉棒を弄るユアの手が止まったからそう言ったのではない。誰にも心の底に閉じ込めておきたいことはある。
「セクシー女優って引退すると大変なんです」
「だろうな」
「伊藤さん、だろうなじゃ済みません」
 ユアの声には怒りのようなものが混じっていた。
「悪かった」
「セクシー女優が引退して職探しなんてあまり聞きませんよね。売れていれば売れているほど引退後に何か違う仕事を見つけることって難しいんです」
「……」
 伊藤は心の中で「だろうな」と言った。
「本当に稀なんですが、誰かと結婚する人もいます。でも多くは水商売に向かいます。キャバ嬢なんかいい方で、不特定多数の男たちに性的サービスを提供する風俗店で再就職する元セクシー女優は少なくありません。そういう場合、元セクシー女優、これって意外と強い武器になるんです」
「強い武器、か」
 伊藤はユアの言葉を繰り返した。
「でも世間の目って厳しいですよ」
「……」
 伊藤には理解できた。厳しい世間の目というやつが。
「仕事をしていたときのSNSは引退すると重荷になるんです。重い荷物なら背中から下ろせばいい。でも実際はそんなに簡単ではありません。どこに行ってもそれは付きまとってくる。日本にいても、海外に脱出しても」
「海外に脱出か、でもどこにいても見つかってしまう」
「そう、その通りです。スマホを手にしていれば情報は向こうから勝手にやって来る。それをたよりに歩いていたら、探していた元セクシー女優とばったりと出会った。なんてことも可能性としてはあるわけです。まぁ、こちらとしては迷惑ですけど」
「君に叱られることを覚悟して言うが、大変なんだな」
 伊藤は心の底からそう言った。
「大変です。だから私、伊藤さんに賭けたんです。そしてその賭けに勝ちました」
 ユアはまた伊藤の乳首と肉棒を弄り始めた。
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