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第30章 第五夜　線状降水帯Ⅱ 　③

「大切なことをした……。つまりBはAのために何かをしたということなのか？」
「そうです。伊藤さん、クイズです。Bさんは何をするために別荘にいたのでしょうか？」
「ヒントは？」
「がっかりだなぁ。伊藤さんならすぐわかると思ったのに」
「君の言うとおり僕は鈍感な男だ。察しの悪い僕に何か手掛かりだけでもくれないか？」
　伊藤はわざとおどけてそう言った。
「伊藤さんやAさんに共通していることが一つだけあります」
「共通？」
「それは余裕です。伊藤さんもAさんも何事にも動じない心を持っています」
「君の観察眼は間違っている。僕なんていつも何かに怯えておろおろしている臆病者だ。痛っ！」
　伊藤の肉棒を押しつぶすくらいに、ユアは伊藤の肉棒を握っている手に力を入れた。
「そういうところがむかつくんです。余裕を私にかましているくせに」
「余裕をかましているって、面白いことを言うな」
「でも伊藤さんとAさんには一つだけ大きな違いがある」
「大きな違い……」
　伊藤はまたユアの言葉を繰り返した。
「伊藤さんだったら絶対にBさんを呼ぶことなんてしません」
「……」
「Bさんを呼ぶという考えが伊藤さんにはないからです」
「確認したいことがある。Bを呼ぶということは契約の中に書かれていたことなんだな？」
「はい」
「それを君は承諾したわけだ」
「私からAさんにはいくつか条件を出しましたが」
「Aはその条件をのんだわけだ」
「はい」
「なるほど」
　大したクイズではない。それでもBという人間を探ることで、伊藤の嫉妬心は更に掻き立てられた。そしてぼんやりだが、伊藤にはBの姿が見えてきた。
　伊藤ならわかる。伊藤は絶対にそんなことはしない。自分の予想が当たっていたら、確かにそんなことはしないだろう。それをする必要もなければ意味もない。意味をなさなければ行動する時間が無駄になる。伊藤はそう思った。
　自分には意味のないことでも、Aにとってはとても大事なことだったのだろう。なるほどC国で日本のセクシー女優が人気なのがよくわかった。日本とC国はイデオロギーは別として距離はそんなに遠くない。大金を見せれば日本のセクシー女優を呼べるし自由にできる。
「伊藤さん、わかったようですね」
「ああ」
「Bさんは何のために別荘にいたのでしょうか？」
「Bは」
　伊藤は言葉を止めてユアの様子を窺った。