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千一夜
第30章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ③
「ふふふ、伊藤さん、私を焦らしちゃだめですよ」
「おそらくBはカメラマンだ。だろ?」
「正解です」
「まさか君とAのセックスのシーンを撮影したとか」
「伊藤さん、私言いましたよね、いくつか条件を付けたと。それにAさんはそういうシーンを撮影したいなんて最初から望んでませんでした」
「じゃあAは何を望んでいたんだ?」
 伊藤の言葉が強くなった。
「記念写真かな?」
「記念写真? 何の記念写真なんだ? 記念写真て七五三とかの写真のことだろ? 写真を撮る意味がわからない」
「伊藤さんは好きな女の子の写真とか持ってません?」
「娘の写真をスマホの待ち受け画面にしているくらいだ」
「本当ですか?伊藤さんがそんなことをしてるなんて信じられない」
「一緒に暮らしている女が僕の浮気を防ぐために無理やりそうしたんだ。効果がないことを早く気付いてほしいんだが、今は毎日娘の写真をメールで送って来る」
「ふふふ、後で見せてくださいね」
「無理だ」
 伊藤はきっぱりと断った。
「ふふふ」
「そんな記念写真を撮ったところで一体誰に見せるんだ? 少なくともAの奥さんや家族に見せるなんてことはできないはずだ。それにこのご時世、撮影された写真が君の意に反してどこかに流出することだってあるかもしれない。そういう危険を君は考えなかったのか?」
「もちろん考えました。でも」
「でも、契約に流出回避のことが書いてあった?」
「はい。それにAさんはそう言うことをする人ではないと思いました」
「根拠は余裕?」
「そう、余裕です。写真を撮ることに意味があっても、Aさんが写真を流出させることには意味がありません」
「なるほど」
 伊藤はAの立場になって考えた。余裕があるかないかは別として、やはり自分もそういう愚かな真似はしない。
「幸い今のところ、Bさんが撮った写真は流出していません」
「君は記念写真と言ったけど、どんな写真?」
「気になります?」
「当たり前だ」
「ふふふ、焼きもちを焼く伊藤さん、何だか可愛いです」
「四十のおっさんは可愛くはない」
「ふふふ」
「それよりどんな写真を撮られたんだ?」
「伊藤さんを焦らしてやろうかな。焼きもち焼いている伊藤さんのおちんちんものぞごく硬くなっているんですけど」
「おい」
 伊藤の肉棒を握っているユアの手がゆっくり動き始めた。
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