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千一夜
第31章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ④
「アイドルか……」
「話を先にすすめますよ」
「悪かった」
「この八つの国ではない人がマーケットに参加することもできます。ただし、八つの国の誰かを通さなければ参加はできません。伊藤さんならおわかりだと思いますが、マーケットに並ぶ商品は決して安くはありません。ですからこのマーケットに出入りできる人はおのずとお金持だけとなるわけです」
 マーケットに並ぶ商品というユアの言い方に伊藤は違和感を覚えたが、敢えてそれを口にすることはしなかった。
「答えにくいかもしれないが、君へのオファーもそのマーケットに出入りしている誰かからのものだったのか?」
「はい」
「一つ質問なんだが、日本はそのマーケットに入っていないのか? 日本のセクシー女優なんだぞ、日本人だって出入りできるだろ?」
「残念ながら入っていません。今日本より日本以外のアジアの国の方々の方がリッチですから」
「すべては金か……そして日本はその競争に負けた、ということか。はぁ」
「ふふふ。伊藤さんは勝っているじゃないですか」
「金のあるなしで勝負を決められても、それはものすごく空しいことだよ」
 金さえあれば憧れの日本のセクシー女優と寝ることができる。
 不況・円安・物価高。伊藤は、そのあおりで海外に体を売りに行く女がいるということを知っている。このまま景気が低迷し、この国の通貨安が続けば、日本の若者はチープジャパンを見捨てて、生きる場を求め海外に向かうことになるのだろう。
「おそらくAさんは、伊藤さんが言った記念写真をマーケットに所属している人たちに見せるんじゃないかなと思います。『この女と寝たんだぜ』みたいな感じでみんなに披露するんじゃないでしょうか」
「写真は自慢の種か?」
「ですね。だから私は言ったんです。伊藤さんにはそういうところがないと」
「普通は隠す。自分からこの女と寝たなんて口が裂けても言わない」
「他の女のことを隠す男もむかつきます」
 伊藤の肉棒を持つユアの手にまた力が入った。
「ははは。君は正直だな。ははは」
「今思うと伊藤さんとAさんにはもう一つ共通するところがありますね」
「何だよそれは?」
「焼きもちを焼くところ」
「雄はみんな焼きもちを焼く。言っただろ?」
「AさんはBさんに私の裸を見せたくなかったんでしょう」
「かもな」
「でも真逆な人間もいるみたいですよ」
「真逆?」
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