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千一夜
第31章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ④

「でもお風呂でエッチをするなんて性癖でも何でもないですね。伊藤さんだってお風呂でセックスするでしょ?」
「……」
伊藤は答えなかった。黙っていること、それが伊藤の答えだった。
「ひょっとしたらあれは性癖になるかもしれません」
ふと思い出したようにユアはそう言った。
「あれ?」
「何だと思いますか?」
「わからないよ、早く教えてくれ」
他人の性癖を想像することがバカバカしい。伊藤はそんなことで自分の頭を悩ませたくなかった。それでも早くユアを買った男の性癖を知りたい。
「は・だ・か」
ユアはわざと一語一語を切って伊藤に伝えた。
「はだか? 何だよそれ?」
「そのままの意味です。裸」
「裸? 裸がどうかしたのか? 犯るときは女はいつも裸だ」
「ブー」
ユアはクイズ番組で不正解のときに鳴らされるブザーの真似をした。
「わからん」
伊藤は降参した。
「ずっと裸」
「ずっと裸ってどういうことだ?」
「伊藤さんは会社に行くとき何を着て行きますか?」
「僕の会社に服装の規定はない。僕を含めて社員は好きな服を着て出社する」
「それでも社長の伊藤さんはスーツですか?」
「おい、そんなことはどうでもいい。早く教えろ」
伊藤は本当に焦れた。
「一週間別荘の中で私はずっと全裸だったんです。私がAさんの仕事部屋に呼ばれるときも全裸。もちろん昼食のとき、夕食のときも何も着ない。お風呂に入った後は下着も身につけず全裸のままAさんが待つベッドに向かう。Aさんのリクエストなんです。一日中全裸でいてくれと」
「別荘に出入りする人間に見られなかったのか? 料理人とか部屋を掃除する人間も別荘の中にはいただろう?」
「心配ですか?」
「もちろんだ」
「Aさん以外に私の全裸を見た人は一人もいません。大きな別荘です。そういう人たちが別荘に出入りするときはAさんの仕事部屋でAさんと一緒にいましたね」
「なるほどね。Aは四六時中君の裸を見ていたんだな。それくらい君の裸は美しいということだ。Aは君の全裸を一週間独占していた。君のファンは羨ましがるだろうな。もちろん僕はAに嫉妬している」
「ふふふ」
「契約の延長はなかったのか?」
「一週間の延長を頼まれました。金額は二倍」
「それで?」
「お断りしました」
「どうして?」
「よく知らない国の気味の悪い大きな別荘に飽きてしまったんです」
「……」
伊藤は答えなかった。黙っていること、それが伊藤の答えだった。
「ひょっとしたらあれは性癖になるかもしれません」
ふと思い出したようにユアはそう言った。
「あれ?」
「何だと思いますか?」
「わからないよ、早く教えてくれ」
他人の性癖を想像することがバカバカしい。伊藤はそんなことで自分の頭を悩ませたくなかった。それでも早くユアを買った男の性癖を知りたい。
「は・だ・か」
ユアはわざと一語一語を切って伊藤に伝えた。
「はだか? 何だよそれ?」
「そのままの意味です。裸」
「裸? 裸がどうかしたのか? 犯るときは女はいつも裸だ」
「ブー」
ユアはクイズ番組で不正解のときに鳴らされるブザーの真似をした。
「わからん」
伊藤は降参した。
「ずっと裸」
「ずっと裸ってどういうことだ?」
「伊藤さんは会社に行くとき何を着て行きますか?」
「僕の会社に服装の規定はない。僕を含めて社員は好きな服を着て出社する」
「それでも社長の伊藤さんはスーツですか?」
「おい、そんなことはどうでもいい。早く教えろ」
伊藤は本当に焦れた。
「一週間別荘の中で私はずっと全裸だったんです。私がAさんの仕事部屋に呼ばれるときも全裸。もちろん昼食のとき、夕食のときも何も着ない。お風呂に入った後は下着も身につけず全裸のままAさんが待つベッドに向かう。Aさんのリクエストなんです。一日中全裸でいてくれと」
「別荘に出入りする人間に見られなかったのか? 料理人とか部屋を掃除する人間も別荘の中にはいただろう?」
「心配ですか?」
「もちろんだ」
「Aさん以外に私の全裸を見た人は一人もいません。大きな別荘です。そういう人たちが別荘に出入りするときはAさんの仕事部屋でAさんと一緒にいましたね」
「なるほどね。Aは四六時中君の裸を見ていたんだな。それくらい君の裸は美しいということだ。Aは君の全裸を一週間独占していた。君のファンは羨ましがるだろうな。もちろん僕はAに嫉妬している」
「ふふふ」
「契約の延長はなかったのか?」
「一週間の延長を頼まれました。金額は二倍」
「それで?」
「お断りしました」
「どうして?」
「よく知らない国の気味の悪い大きな別荘に飽きてしまったんです」

