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千一夜
第32章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ⑤
「クラプトンのギターもジャック・ブルースのベースもジンジャー・ベイカーのドラムも最高だった。テクニックだけに頼らずにひたすら彼らが求める音を追及しながら演奏している。White Roomを聴くとそれがわかるんだ。橘は僕を天才だとかいうが、本当の天才は彼らだよ。僕の中では彼らがロックの神様だ。彼らは音楽を尊敬している。だから神は彼らにアイデアを与えているんだよ。つまり彼らは神に愛されている。creamが奏でた音楽にまだ僕は酔っている。そしてその酔いからまだ醒めない。だが限界だ。僕の音楽の受け止め方がもう時代に合っていない。悲しいがそう言う自分を認めないわけにはいかない」
 胸の奥に隠していたものを伊藤は裕子に打ち明けた。
「ねぇ知ってる?」
「……」
「ドラムのジンジャー・ベイカーがこう言っているわ『creamがロックだったことは一度もない』と」
「本当か?」
「ええ」
「じゃあ何なんだよ?」
「インプロヴィゼーション」
「即興音楽」
「そう、即興音楽。ジャズが大好きな伊藤君が好きになるのは当然よ。天才たちのインプロヴィゼーションなんですもの」
「……なるほど」
「伊藤君」
「何だ?」
「今伊藤君が何をしているか当ててみましょうか?」
「それじゃあ今僕は何をしている?」
「社長室に飾ってるクラプトンのブラッキーを見ているわ。当たったでしょ?」
 伊藤はエリック・クラプトンが使用したフェンダーのストラトキャスターをオークションで何本か競り落としている。社長室に飾っているのはその中でも高額で落札した1950年代制のブラッキーだ。
「参りました」
 確かに伊藤は裕子が言うようにブラッキーを見ていた。
「伊藤君は天才だけどものすごくわかりやすい人なの」
「間が抜けた男なんだよ」
「そういう謙遜いらないから。伊藤君はもう忘れたと思うけど、私一度社長室に飾ってるブラッキーに触ろうとしたのよ。そうしたら伊藤君にもの凄い目で見られたの。伊藤君の目は“触るな”っていう目をしてたわ」
「おい、僕はそんなにけち臭い男じゃないぞ」
「わかってるわ。ただ私がブラッキーに嫉妬しただけ」
「バカバカしい」
「何がバカバカしいよ」
「ものに嫉妬したって何の意味もない」
「もちろんよ。私は意味のない嫉妬をして伊藤君との時間を楽しんだだけなの」
「ふん」
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