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千一夜
第32章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ⑤
「伊藤君、あと十年会社から離れることはできないから」
「はぁ、十年か」
「十年なんてあっという間よ」
「誰かいないのか? 僕の代わりなら香苗でもいいだろ?」
「香苗さんにはやってもらわなければならない仕事があるわ。そのためにセレクトショップを買ったのよ」
「……」
 伊藤は十年という時間を考えた。何も浮かばない。いや浮かんでくる映像を伊藤は消し続けた。
「伊藤君のせいよ」
「僕の? 僕が悪いということなのか?」
「伊藤君が大きすぎるのよ。会社の中を見回してみたわ。伊藤君に代わる人なんて一人もいなかった。カリスマって膨れ上がると毒になるの」
「ひょっとしてそれは僕のことか?」
「そう、毒を放つカリスマには誰も近づけない」
「さり気なく僕をディスっていないか?」
「いいえ。天才にもそういう弱点があるということ。悪いことではないわ、でも……」
「でも、でも何だよ?」
「誰も伊藤君を追い越そうとは思わない。だって伊藤君は毒を放って誰も寄せ付けないんですもの」
「そんなつもりはないが」
「……伊藤君、諦めて。後十年は会社から逃げられないから」
「……」
 伊藤が目を瞑る。暗闇の中に手を差し伸べたが何も掴むことができなかった。そして静寂が闇を深くする。
「それにしてもニューオリンズのレコードショップなんてよく買えたわね」
「ずっと通って、もし店を売るようなことがあれば一番に声をかけてくれと言っていたんだ」
「儲かってるって聞いたけど」
「おかげさまで」
 ストリーミング全盛の時代になっても品揃えがいいレコードショップには客が絶えない。
「誰に任せてるの?」
「前のオーナー」
「どんな人?」
「七十を超えたいかした老人だ。彼は自分の人生をジャズとセインツに捧げている。売却で手にした金で孫に家をプレゼントしたと聞いたけど」
「信用できるの?」
「逆だな。信用してもらったから店を買うことができた。一つの欠点を覗けばナイスガイだよ」
「おじいさんの欠点て何?」
「演奏の下手なプレーヤーを遠慮なく怒鳴る。僕は二度ほど喧嘩を止めた。まぁ、厄介なじいさんだよ」
「私もそのおじいさんに会える?」
「もちろん。連れてってやるよ。でも、じいさんには注意してくれ」
「何?」
「あのじいさん、七十を超えても女は現役だとぬかしていた。エロ親父だ」
「ふふふ、会うのが楽しみ」
「口説かれるなよ」
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