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千一夜
第32章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ⑤
「伊藤君、私が言うことじゃないけど、これからは伊藤君が誰かの心を揺らす音楽を作らなければならないわ」
「……」
「ジャック・ブルースを見つけるの。クラプトンを探してジンジャー・ベイカーが叩くドラムに耳を澄ますの。天才たちを世に送り出すことがこれからの伊藤君の役目よ。それが伊藤君の仕事」
「……」
 伊藤はまだ黙っていた。
「お腹の赤ちゃんがWhiteRoomを聴いたらびっくりするかしら?」
「いや、心が揺れる」
「どうして?」
「僕の子供だ。間違いなく心が揺れる」
「ふふふ」
「橘」
「何?」
「……」
「泣いてるの?」
「青春の汗という奴が目からこぼれてるだけだ」
「男でしょ」
「橘、お前のその言葉コンプライアンス違反になるぞ。でもまぁいい。橘、男でも泣くときは泣く」
「もう一度言うわ。伊藤君は男でしょ」
「……会いに行っていいか?」
「バカ!バカバカバカ!」
 裕子も泣いていた。
「ダメだよな」
「会いたい、伊藤君に会いたいわ。でも今は絶対にダメ。伊藤君のためじゃないわよ。会社のため。わかってほしい」
「ああ。必要なものがあれば何でも言ってくれ」
「十分よ。伊藤君のお蔭てここではお姫様のようにしてもらえてるから」
「橘」
「何?」
「……何でもない。それじゃあまた連絡する」
「ご飯、ちゃんと食べなさい」
「了解だ、副会長」
「ふふふ」
 三日後、橘裕子の病室に伊藤からの贈り物が届いた。
 裕子は贈り物の箱を開ける。中から社長室に飾られていたクラプトンが使用したフェンダーストラトキャスターブラッキーと同じく社長室に飾られていたコロラドロッキーズ、チャーリーブラックモンの背番号19のユニフォームが入っていた。
 ブラッキーにチャーリーブラックモンのユニフォームを着せて、裕子はそれを強く抱きしめた。
 裕子は泣いた。涙が枯れない。
「どうやらあなたのお父さんは、あなたにギタリストか野球の選手になってもらいたいのかもしれないわ。でもあなたは好きなことをしていいのよ。お父さんもお母さんもあなたを叱りはしないから」
 それから裕子は伊藤からのメッセージカードに目をやった。カードには小さな赤いハートもマークが書かれていた。形はよくないが間違いなく伊藤が書いたものだ。
 裕子はそれを見て笑った。
 裕子は伊藤が書いた不格好なハートマークにキスをした。
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