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千一夜
第33章 第五夜 線状降水帯Ⅱ ⑥

伊藤は席を立ち、部屋に入って来た倉田カレンに深く頭を下げた。カレンは目だけ伊藤にやると自分に用意されている席に向かい遠慮なく座った。
今回のドラマ撮影のためかカレンは長がった髪をショートボブにしていた。いい女だと伊藤は思った。美しさの中に可愛さと負けん気が自然と溶け込んでいる。小悪魔という言葉は、もしかしたら倉田カレンのために用意された言葉なのかもしれない。
「本日はお時間を頂き誠にありがとうございます」
伊藤はもう一度カレンに頭を下げた。
「別にどうでもいいけど」
ぶっきらぼうにそう言うと、カレンはロエベのハンドバッグを隣の椅子に置いた。
ダメージ加工のリーバイスのデニムにナイキのエアフォース1、紫色のキャミソールに黒いスカジャンを羽織っている。大き目のサングラスを外すとカレンはそれをバックに入れた。
巨乳ではないが、キャミソールに隠されている三十九歳のカレンの乳房はまだ形を崩していない。それはまるで伊藤の目がそこに来るようにカレンが仕掛けた罠のようだった。男は間違いなくこの罠に落ちてしまう。もちろん伊藤もカレンの罠にかかってしまった。
「失礼いたします」
伊藤は更にもう一度頭を下げてカレンの正面の席に座った。
「伊藤」
カレンは伊藤を呼び捨てにした。
「はい」
「伊藤のこと何て呼べばいいの? 伊藤? それとも社長?」
「お好きなように」
「じゃあ伊藤でいいわね?」
「構いません。料理はこちらで決めさせていただきました」
「ねぇ、どうして伊藤の六合じゃないの? 期待してたんですけど」
「申し訳ございません。予約が間に合いませんでした」
「六合って伊藤のものなんでしょ?」
「はい、私が経営しております」
「経営とかそんなのどうでもいいわよ。それより自分のものなら何とかしなさいよ。伊藤は社長なんでしょ?」
「お時間を頂ければ今度ご招待いたします」
「じゃあ明日」
「無理です」
「明後日は?」
「三か月お時間をください」
「はぁ? 私をバカにしてるの?」
「とんでもございません」
「お金持ってても伊藤役立たずじゃん。それにその安物の腕時計何とかならないの? 伊藤はお金持なんでしょ。お金があったら高い腕時計買いなさいよ。貧乏くさい男って最悪よ」
「……」
伊藤はにこりと笑って左手首に巻いている1969年製のシチズンホーマーに目をやった。
今回のドラマ撮影のためかカレンは長がった髪をショートボブにしていた。いい女だと伊藤は思った。美しさの中に可愛さと負けん気が自然と溶け込んでいる。小悪魔という言葉は、もしかしたら倉田カレンのために用意された言葉なのかもしれない。
「本日はお時間を頂き誠にありがとうございます」
伊藤はもう一度カレンに頭を下げた。
「別にどうでもいいけど」
ぶっきらぼうにそう言うと、カレンはロエベのハンドバッグを隣の椅子に置いた。
ダメージ加工のリーバイスのデニムにナイキのエアフォース1、紫色のキャミソールに黒いスカジャンを羽織っている。大き目のサングラスを外すとカレンはそれをバックに入れた。
巨乳ではないが、キャミソールに隠されている三十九歳のカレンの乳房はまだ形を崩していない。それはまるで伊藤の目がそこに来るようにカレンが仕掛けた罠のようだった。男は間違いなくこの罠に落ちてしまう。もちろん伊藤もカレンの罠にかかってしまった。
「失礼いたします」
伊藤は更にもう一度頭を下げてカレンの正面の席に座った。
「伊藤」
カレンは伊藤を呼び捨てにした。
「はい」
「伊藤のこと何て呼べばいいの? 伊藤? それとも社長?」
「お好きなように」
「じゃあ伊藤でいいわね?」
「構いません。料理はこちらで決めさせていただきました」
「ねぇ、どうして伊藤の六合じゃないの? 期待してたんですけど」
「申し訳ございません。予約が間に合いませんでした」
「六合って伊藤のものなんでしょ?」
「はい、私が経営しております」
「経営とかそんなのどうでもいいわよ。それより自分のものなら何とかしなさいよ。伊藤は社長なんでしょ?」
「お時間を頂ければ今度ご招待いたします」
「じゃあ明日」
「無理です」
「明後日は?」
「三か月お時間をください」
「はぁ? 私をバカにしてるの?」
「とんでもございません」
「お金持ってても伊藤役立たずじゃん。それにその安物の腕時計何とかならないの? 伊藤はお金持なんでしょ。お金があったら高い腕時計買いなさいよ。貧乏くさい男って最悪よ」
「……」
伊藤はにこりと笑って左手首に巻いている1969年製のシチズンホーマーに目をやった。

