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千一夜
第33章 第五夜 線状降水帯Ⅱ  ⑥
「ねぇ、お腹空いてるんだけど」
 カレンは伊藤にそう催促した。時間に遅れたことなど全く気にしていない。
「申し訳ございません」
 伊藤は自分のスマホから店に料理を運ぶように指示を出した。二分後、部屋のドアがノックされた。ドアを叩く音がしてから少し間をおいて「失礼します」という女の声が聞こえた。四十代前半位の和服を着た店員が部屋に入って来た。
 店員は上座に座っているカレンの前に食前酒を置いた。
「八海山梅酒でございます」
 グラスが置かれると同時にカレンはそれを取り上げて一気に喉に流し込んだ。
「私、甘いのダメなの。もっと強いのを頂戴。ウォッカとかないの?」
「これから料理が運ばれます。お酒はお店にお任せることにしましょう」
 伊藤はそう言ってカレンを諭した。
 日本料理をリクエストしておきながら酒はウォッカ。伊藤はカレンの心の中が何となく読めた。今彼女の心の中では強い風が吹いている。しかしその風はカレンの不満を吹き飛ばすことができない。だから溜まりに溜まったカレンのフラストレーションが撮影現場に向かったのだ。
 問題俳優をうまくコントロールするが伊藤の役目。伊藤には自信があった。どんなに酷い言葉を浴びせられても自分は冷静でいられる。伊藤は倉田カレンという俳優を若いころから見てきたし、テレビ局に勤めていたときに一度だけカレンと仕事をした。カレンが傲慢で我がままなのは今に始まったことではない。
 そしてもう一つ。伊藤はカレンという女をいろいろな意味で知っている。カレンの本当の性格、そして……。
 先付け、吸い物、お造りと料理が進んでいった。カレンが話し出した。その多くは撮影現場での愚痴だった。
「むかつくんだけど」
「むかつく?」
「あのガキ、一度も私のところに挨拶に来ないんですけど」
「あのガキとは誰のことですか?」
「氷室凛とかいうクソビッチ」
「氷室さん?」
「さんなんてあのガキに必要ないわよ」
 氷室凛、今回のドラマの主演俳優の恋人役を演じている。
「承知いたしました。次の撮影現場では必ずうちのスタッフと氷室さんが倉田さんのところに参ります」
「何で伊藤の会社のバカが一緒なの?」
「私の会社にバカは一人もおりません。しかし、撮影の責任は私の会社にあります。ですので一緒にご挨拶に伺います。よろしくお願いします」
 そう言って伊藤はカレンに頭を下げた。
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