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第33章 第五夜　線状降水帯Ⅱ 　⑥

「ねぇ、だったら何であんなガキにカメラを回させるわけ？」
「ガキ？」
「そう、才能があるのかないのかわかんないガキ」
「それは宮田のことをおっしゃっているのでしょうか？」
　宮田真一はカレンが出演しているドラマの監督だ。
「そう、あのくそガキ」
「倉田さん、確かに宮田は若いですが、宮田は倉田さんが言うガキではありません。我が社の社員で倉田さんにご出演いただいているドラマの監督です」
「いちいちうるさいのよ、あのガキ。ああしろこうしろと面倒なことを私だけに言うし、撮った後も私を呼んで説教するのよ」
　カレンは伊藤の言葉を無視した。
「宮田には宮田の考えがあってそう倉田さんにお願いしているのだと思います。ですから」
「あのガキ、何とかしてよ」
「倉田さんからそういう話があったということは宮田に伝えます。ただ、監督は宮田です。作品を作っている人間に横から口出しはできません」
「伊藤って本当は脳無し？　あのガキは伊藤の手下でしょ？」
「私には手下はおりません。宮田は私の会社の人間で、何度も言いますが今回倉田さんにご出演していただいているドラマの監督です」
「伊藤がカメラを回せばいいでしょ？」
「私には私の仕事があります」
「金儲け？」
「利益を追求することは、上場企業として当たり前のことです。増収増益、それはご支援いただいている株主様へのお約束事だと思っております」
「伊藤」
「はい」
「あんた、変わったわね」
「変わりました。歳もとりました。もう昔のままでいられなくなりました」
「それって私がおばさんだということ？」
「とんでもない。倉田さん、あなたはお綺麗な方です。美しさの中に可愛らしさもある。そういう女優の方はなかなかいません。あなたは貴重な俳優さんなんです。倉田さん」
　伊藤はここで間をとった。
「……」
「私は……いや僕はあなたの生意気さが大好きです。あなたはこれからも傲慢でわがままでいればいいんです。でも役を演じるときはそれを捨ててください。あなたならそれができる。できるからこそあなたはプロなんです。あなたがわざと宮田を悩ませているのはわかります。あなたのお蔭で宮田は成長できるでしょう。ですからあなたにも大女優になって欲しいんです」
　伊藤はカレンに頭を下げた。
「伊藤」
「はい」
「条件があるんだけど」
「何でしょうか？」
「ここで土下座してくれる？」