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千一夜
第35章 第六夜 線状降水帯Ⅲ ②
 通訳の名前は佐藤和子。この女の地味な名前を聞いても、誰も彼女を思い浮かべることはできない。それは当たり前のことで、東京の私立大学で英文学を教えている五十二歳の彼女を知っている人間は極々わずかだ。
 あの話がなければ伊藤と和子が出会うことはなかった。それは……。
 アトランタのジャズ専門のラジオ局を買収して直ぐ、ラジオ局は伊藤にあるリクエストをした。それはタイムテーブルに新オーナーが作る番組を入れたいというものだった。当然、伊藤はそれを丁重に断った。買収したラジオ局に対してオーナー風なんか吹かしたくなかったし、そもそも伊藤にはそんな時間がなかった。ところがラジオ局は諦めなかった。何度も何度も伊藤にアトランタからメールを送った。仕方なく伊藤はそれを承諾した。聴取率の悪い時間帯を伊藤の個人会社が買った。そしてその時間に伊藤の独断と偏見を入り交えた番組を作ったのだ。伊藤がチョイスしたジャズナンバーをかける。その曲に対する伊藤の思いがパーソナリティによって語られる。パーソナリティはアルバートの孫娘。
 誰も期待しない番組だった。もちろん伊藤も。ラジオ局は新しいオーナーを試したかったにすぎず、番組がこければ、「ほら見ろ、新しい日本人オーナーなんてジャズがわからないド素人だ」と伊藤をこき下ろすことができる。
 だが、大方の予想に反して伊藤の番組は毎回毎回聴取率を上げていった。
 伊藤が選んだ楽曲のストリーミング再生は増え、番組オリジナルのグッズも販売することになった。そして書籍の販売へと繋がっていったのだ。儲けるときは儲ける。たとえオーナーが忙しくても、その好機を放っておくことは絶対に許されない。
 アルバートの孫娘が朗読した伊藤の評論とエッセイ。それを英訳したのが和子だったのだ。
 当初伊藤は、アメリカの知人に翻訳を依頼するつもりだった。ところが、日本の出版社からの売り込みが伊藤にあったのだ。「この仕事に最適な人がいる」と出版社の人間は言った。
 経歴も実績(英文学者の実績など伊藤は全くわからないが)も申し分なし。そして和子の夫は英文学会の重鎮である七十四歳の佐藤学だった。
 断ることもできたが、アメリカやイギリスの舞台を見に行ったときに、伊藤は何度かこの英文学会の重鎮と会っている。面倒は起こしたくない(後々のために)。伊藤は翻訳を和子に依頼した。
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