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千一夜
第37章 第七夜 訪問者
 私はコンサバティブな人間だ。新しい映画を見たり、流行りの音楽を聴くことよりも、七十年代八十年代の映画を鑑賞し、昔から聴きなれた音楽を耳にする方が好きだ。
 そんな私の映画や音楽の接し方は、脳の働きをよりリラックスさせるためには理にかなった行動なのだそうだ(誰が何をどう研究した結果なのかはわからないが)。
 もっとも巷で流行っている何とかポップなんて聴こうとは思わないし、世の中に流れるトレンドを追うにはいささか歳を取りすぎてしまった。
 想像すればわかることだ。四十八の男が部下の前で、社会現象化している若者文化を知ったかぶりするのは実に滑稽なことだと私は思う(あくまでも私の考えだ)。知らないものは知らない。興味のないものは興味がない。私の人生は単純で明解だ。私はそういう風に四十八年間生きていたのだ。
 私は人口が十万人に満たない街の役所に勤めている。出世しようなんて一度も考えたことがなかったが、私は四十八で統括課長になった。
 辞令の内示が出た後、私は市長室に呼ばれた。市長は私に四十八での昇進は異例なことだと何度も言った。そしてこう続けたのだ。
「次は君に出てもらうから」
 次とは二年後に控えている市長選挙のことだ。
 どこの国の政治家も考えることは一緒だ。引退した後も権力からは離れようとしない。
「……」
 私が黙っていると、市長は私の退路を塞いだ。
「このことはもう皆さんに伝えているから」
 皆さんとは、町の有力者たちを指す。
「……」
「そこでだ、一つだけ君にはウイークポイントがあるんだよ。わかるよね?」
「……」
 はいわかります、とは言えない。私は黙って市長の次の言葉を待った。
「これ見て」
 市長は自分の机の上に見合い写真を置いた。四十八の私は独身なのだ。私は一度も結婚したことがない。
 見たくはなかったが、市長の前で見たくないとは言えない。私はそれを取って写真を見た。
「遠山咲子。遠山機械工業の次女だ。歳は……そうそう三十九だと言ってたな。大学はF女学院。君はK大学だからぴったりだろ。だが出戻りだ。おっとまずいな、今のは聞かなかったことにしてくれ。彼女二十五か二十六のときにアメリカ人と結婚したんだよ。でも結婚生活は一年ももたなかった。世間でよく言う性格の不一致だ。何が不一致なのかわからないがな。ははは」
 市長はそう言って妙な笑い方をした。
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