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千一夜
第37章 第七夜 訪問者
 裕福な家庭に育った人間だけがK大学に行くわけではない。田舎からの仕送りがなかった私は、家庭教師のアルバイトと喫茶店トリコロールで働きながら大学に通っていた。
 勉強を疎かにしたくなかったので、私は大学のサークル活動には参加しなかった。
 私の大学生活は学問とアルバイトで成り立っていた。そういう私には飲み会の誘いなんかほとんどなくて、だから恋人もできず(理由はこれだけではないが)、友達も多くはなかった。 
 ただ一つだけ言えるのだが、私の大学生活は決して苦しいものではなかったし、貧しさ故(大学生として)誰かを妬んだりひがんだりしたことは一度もなかった。
 当時、トリコロールは新橋にあるデパートの地下一階にあった。四階にある従業員のロッカールームで着替えを済ませて、従業員専用のエレベーターで地下一階に下りたときだった。扉が開くとなぜかそこに泣いている女の子がいたのだ。
 私はその女の子にどうしたのかと訊ねた。女の子は泣いているだけだった。次に名前を訊ねた。だが、やはり泣いてるだけで私には何も答えてくれなかった。
「そこで働いてるんだけど、ジュース飲む?」
 確か私はその女の子にそう訊ねたと思う。女の子は喫茶店トリコロールを見た後小さく頷いた。
 私はトリコロールの店長に事情を説明した。店長がデパートに連絡をして、デパートの人間がトリコロールまでくる間、私は約束通り女の子にオレンジジュースを御馳走した。
 本物のオレンジを搾ったジュース。
「美味しい?」
 私がそう訊ねると、女の子はまたこくりと小さく頷いた。
 そのお礼なのか、後日女の子は母親と一緒にトリコロールにやってきた。「親切にしていただきありがとうございました」母親は持ってきたウイスキー(サントリーの山崎)を私に渡してそう言った。受け取るのを丁重に断ったのだが、女の子の母親はウイスキーを私の前に置いて行った。
 それから週末の金曜日にその女の子がトリコロールにやってくるようになったのだ。女の子が来ると私はいつもオレンジジュースを御馳走した。
 女の子の名前は立花京子。小学校四年生で新橋に近い児童劇団に所属していた。 
 私と京子が話していると、他のお客さんにいつもこう訊ねられた。
「妹さん?」
「いいえ」
 そう否定するのがだんだん辛くなってきた。京子が本当に私の妹なら、そう思い始めたとき……。
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