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千一夜
第37章 第七夜 訪問者
 京子と出会ったおかげで、私の心に潤いが生まれた。
 大学生活が苦しくはなかったと言ったが、だからと言って楽しいものでもなかった。小学四年の京子は、おしゃべりが大好きだった。トリコロールに客がいないとき、私はいつも京子と話していた。他愛のない話でも私は京子の話に引き込まれた。
 ピーターパンのお芝居でとても重要な役に付いた京子に、私は必ずその芝居を見に行くという約束をした。そうそう、私は京子のために何度か芝居の本読みの相手をしたことがあった。私には役者の才能がなかったようで、京子から何度もダメ出しをされた。
 ダメ出しをする京子も、ダメ出しをされた私も、そのときはいつも笑っていた。でもその笑いは長く続かなかった。
 今更だが、一つだけ断っておく。私は小児性愛者ではない。おしゃべりが大好きな京子は、本当に可愛かった。私は、利発で他者のことも気に掛ける京子を女として見たことは一度もない。お芝居に打ち込む京子のことを純粋に応援していただけなのだ。
 ところが突然京子がトリコロールに姿を見せなくなった。一週間、二週間、そしてひと月経った。
「最近、あの子来ないな」
 そう言ったのは店長だった。そして店長はこう続けた。
「あの子来ないと何だか寂しいよな」
「はい」
 私はそう返事をした。
 仲良くはなったが、京子がどこに住んでいるのかなんて私は京子に訊いたことなど一度もない。その頃は今みたいに携帯電話が普及しておらず、恋人ではない京子と電話でやり取りすることもなかった。
 心にぽつんと穴が開いた。そしてその穴はどんどん大きくなっていった。私の大学生活が元に戻った。心に灯った灯りはいつの間にか消えていた。灯りがもう一度灯ることを願ったりしたが、残念ながら同じ灯りが灯ることはなかった。
 心に開いた穴を塞ぐには時間が必要だった。
 私は大学を卒業するまでトリコロールで働いた。もちろん家庭教師のアルバイトも続けた。
 リクルートスーツは買った。だが私は就職活動をしなかった。いやここは正確に言わなければならない。私は地元に帰り、役所に勤めることを早い時期から決めていたのだ。公務員試験の対策は万全だった。
 生意気な言い方をあえてすれば、役所の試験は簡単すぎた。小さな街の役所の試験には百人を超える受験生が集まったと聞いている。
 私は合格した。
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