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千一夜
第37章 第七夜 訪問者
 私は今目の前にいる立花京子から小学四年生だった京子を探した。私の脳裏に小学四年の京子が浮かんだ。時間なんて必要がないくらいに早く京子を思い出すことができた。
「京子ちゃんは可愛いから必ず素敵な女優さんになるよ」
 あのとき私は京子にそう言った。
「サンキュー、亮ちゃん」
 搾りたてのオレンジジュースを一口飲んだ後、京子は私にそう返した。京子は私を亮ちゃんと呼んでいた。
 あれからもうかれこれ三十年経つのだろうか、京子は本当にいい女になっていた。
「綺麗になったね」
「ふふふ」
「あっ、ごめんごめん。変な意味はないから」
 京子から誤解されることが私は怖かった。
「亮ちゃんも素敵なおじさまじゃん」
 何々じゃんという言い方、あのころ確かに流行っていた。
「残念ながら素敵なおじさまにはなれなかったよ。陰でクソジジイと呼ばれているに違ない。悲しいけどね」
「ふふふ」
「可笑しいか?」
「だって亮ちゃん昔と全然変わってないんだもん」
「昔と変わっていない?」
「自信なさそうな言い方、昔と同じ」
「そうかな」
「ふふふ」
「京子ちゃん、私がここに住んでいることをどうして知ってるんだ? いやいや、京子ちゃんは今どこに住んでいるんだ?」
 三十年前に突然私の前から消えた女が、こうして私の目の前にいることが不思議でならなかった。
「私、T市に越してきたんです」
「仕事? それとも結婚……とか」
 京子にそう訊ねた後、私の中に潜んでいる男の嫉妬が疼いた。
「ふふふ、気になります?」
「ああ」
「じゃあ秘密」
「秘密?」
「ふふふ」
「でもどうして?」
「でもどうしてここがわかったのか?」
「そう」
「市の広報に亮ちゃんが出てたから」
「広報?」
 そう言えば新しい統括課長を紹介する内容の広報があった。
「ふふふ」
「でも応報には住所まで載っていないはずだ」
「広報を持って窓口に行って訊ねたんです」
「窓口って市民窓口のこと?」
「そうです」
「それで窓口にいた人間が京子ちゃんに教えたということ?」
「ふふふ」
「……」
 複雑な心境とはこのことだ。京子に会えたことは素直に嬉しい。だが、簡単に個人情報を第三者に漏らしてしまう窓口の対応が気に食わない。
「ダメだったんですか?」
「京子ちゃんに会えたのは嬉しいよ。でも窓口の対応は間違ってる」
 妖しの世界はこうして始まった。

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