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千一夜
第37章 第七夜 訪問者
 窓口の対応は確かに間違っている。だが、私はふと思ったのだ。個人情報を取り扱うことが多い役所だからこそ、そういう部分の教育と指導は徹底してきた。それを疎かにする職員が本当にいたのだろうか。
 それだけではない。なぜか釈然としないのだ。心のどこかに何かが引っかかる。私にはその何かを探すことが今できない。なぜなら私は京子との会話にのめり込んでしまって、そういうもやもやした気持ちに重い蓋を被せたのだ。
 京子に会えたことだけで十分だ。湧いてくる疑問なんてどうでもいい。もっと京子と話をしていたい。ずっと京子を見ていたい。この時間が永遠ならば、私はそう思った。
「上がってお茶でも」と言いたかったが、こんなに夜遅く、女性を自分の家に上げるのには役所の職員として抵抗があった。
「今日はこれで失礼します」
 私の気持ちを察したのか、京子は私にそう言った。
「また会えるかな」
 私は、人生で初めてそういう台詞を口にした。
「ふふふ」
「……」
 似合わないことを言うべきではなかったと私は後悔した。
「また伺います」
「……」
 連絡先を教えてくれないか、と言おうとしたが声が出なかった。
「亮ちゃん」
「……」
 何だい?という言葉も出てこない。
「さようなら」
「……」
 私は心の中で京子にさようならと言った。
 玄関のドアが閉まった。私はしばらく誰もいない玄関にいた。ドアの向こうに京子がいるような気がしたからだ。でもドアは再び開くことはなかった。
 誰かに心をギュッと掴まれたような感じがした。痛みはないが、軽い圧迫感は続いた。私は気づいた。四十八になって私は初めて恋をしたのだ。
 記憶のアルバムからいきなり小学四年生の京子が大人になって私の前に現れた。妹だと思っていた京子は女になったのだ。
 私はどうにかしてようやく重い体をベッドの中に潜り込ませることができた。眠ることなんてできないだろう。ならばずっと京子のことを考えよう。私は目を瞑った。自制しようとしても自然と右手がペニスにに伸びた。ペニスを掴むとそれは鋼鉄のように硬くなっていた。右手がとてもスムーズに動く。手を動かしながら私は京子のことを思っていた。京子の唇、京子の胸、そして京子のあそこ。京子の裸を想像しながら私はマスターベーションをした。
 私には京子に知られたくない秘密がある。私は告白する。私は女を知らない。
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