この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
千一夜
第37章 第七夜 訪問者

登庁すると私の机の上にメモ用紙が置かれていた。“至急市長室まで”メモ用紙にはそう書かれていた。私は三階の市長室に急いだ。
「長谷川です。失礼します」
ドアをノックして私は市長室に入った。市長は来客用の応接セットのソファに座っていた。
「掛けたまえ」
「失礼します」
私はソファに腰を下ろした。
「次の日曜空けといてくれ」
「日曜ですか」
「君、ゴルフできるよね?」
「はい」
「当日は遠山機械工業の会長と咲子さん、そしてわたしと君でコースを回る」
「あの」
「断ることはできないからね」
市長は私の言葉を遮ってそう言った。
「一つだけお訊ねしたいことがあります」
「何だね?」
「どうして私なのでしょうか? 確かに私は独身です。でも私なんかよりもっと見栄えがよくて咲子さんにお似合いの男は他にいると思うのです」
「遠山さんから指名されたんだよ」
「会長からですか?」
「いや」
「では誰から?」
「咲子さん本人からだよ」
「私は遠山咲子さんにお会いしたことがありません。ですから」
「広報だよ広報」
市長はまた私の言葉を遮った。
「広報?」
本当なのだろうか。もしそれが本当なら、私が載っている広報に興味を持った女が二人いたことになる。
「広報で君を見た咲子さんは会長にこう言ったらしい『清潔感があって爽やかな人』。君は咲子さんから見初められたんだ。ありがたいことだろ」
「広報に載った写真だけで」
「一目ぼれじゃないのか。失礼だが長谷川君、今君には結婚を考えている相手なんかいないだろ? だったらチャンスじゃないか。チャンスは掴むものだ。それを黙って見ているのは馬鹿だ。わかるよね?」
「……」
「これは会長が言っていたことだけどね。君と付き合いたい。できることなら君と結婚したいと咲子さんは会長に必死に懇願したそうなんだ。そして私のところに会長から電話があったんだ『長谷川亮太はどういう男なのか』とね。おそらく向こうも徹底的に君のことは調べたんじゃないか。そして君は合格した。そういうことだ」
「……」
辞退したいのだが、うまく言葉が出てこない。
咲子の顔を思い出した。確かに美人だ。でも苦労を知らない女と一緒に暮らしていく自信が私にはない。私と咲子は育ってきた環境が全く違う。
お嬢様の気まぐれというやつで私は選ばれたに過ぎない。先を思うと体が震えた。
「長谷川です。失礼します」
ドアをノックして私は市長室に入った。市長は来客用の応接セットのソファに座っていた。
「掛けたまえ」
「失礼します」
私はソファに腰を下ろした。
「次の日曜空けといてくれ」
「日曜ですか」
「君、ゴルフできるよね?」
「はい」
「当日は遠山機械工業の会長と咲子さん、そしてわたしと君でコースを回る」
「あの」
「断ることはできないからね」
市長は私の言葉を遮ってそう言った。
「一つだけお訊ねしたいことがあります」
「何だね?」
「どうして私なのでしょうか? 確かに私は独身です。でも私なんかよりもっと見栄えがよくて咲子さんにお似合いの男は他にいると思うのです」
「遠山さんから指名されたんだよ」
「会長からですか?」
「いや」
「では誰から?」
「咲子さん本人からだよ」
「私は遠山咲子さんにお会いしたことがありません。ですから」
「広報だよ広報」
市長はまた私の言葉を遮った。
「広報?」
本当なのだろうか。もしそれが本当なら、私が載っている広報に興味を持った女が二人いたことになる。
「広報で君を見た咲子さんは会長にこう言ったらしい『清潔感があって爽やかな人』。君は咲子さんから見初められたんだ。ありがたいことだろ」
「広報に載った写真だけで」
「一目ぼれじゃないのか。失礼だが長谷川君、今君には結婚を考えている相手なんかいないだろ? だったらチャンスじゃないか。チャンスは掴むものだ。それを黙って見ているのは馬鹿だ。わかるよね?」
「……」
「これは会長が言っていたことだけどね。君と付き合いたい。できることなら君と結婚したいと咲子さんは会長に必死に懇願したそうなんだ。そして私のところに会長から電話があったんだ『長谷川亮太はどういう男なのか』とね。おそらく向こうも徹底的に君のことは調べたんじゃないか。そして君は合格した。そういうことだ」
「……」
辞退したいのだが、うまく言葉が出てこない。
咲子の顔を思い出した。確かに美人だ。でも苦労を知らない女と一緒に暮らしていく自信が私にはない。私と咲子は育ってきた環境が全く違う。
お嬢様の気まぐれというやつで私は選ばれたに過ぎない。先を思うと体が震えた。

