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千一夜
第38章 第七夜 訪問者 隠し事について
 席に戻ると柏木という男の職員が私のところにやって来た。彼は私の統括としての予定の管理と、私のところに来る仕事の窓口の役割を担っている。統括課長に秘書はいないが、二十八になる彼の仕事は私の仕事をフォローすること。本来彼の名刺の肩書には統括課長秘書と書くべきなのだ。
「統括、これをご覧ください」
 柏木はそう言うと、A4サイズの一枚の紙を私に見せた。そこには来週一週間のスケジュール変更が記されていた。
 彼の肩書は統括課長秘書と書くべきだと私は言ったが、それは間違いだ。どうやら彼は市長の秘書のようだ。おそらく彼は私より先に私の北海道行きを知っていた。いや知らされていた。
「これ拙いな」
 思わず私はそう言った。
「大丈夫です。まぁ多少残業が増えますが」
「申し訳ない」
 私は柏木に頭を下げた。
「統括の幸せのためです。一週間くらいどうにかなりますよ」
「本当に申し訳ない」
 辺りを見回すと、職員たちの目が私と柏木に向かっていることがわかった。私は立ち上がり、職員達に「申し訳ない」と言って深く頭を下げた。
「統括、北海道のお土産期待してます」
 屈託のない顔で柏木はそう私に言った。
「了解だ」
 四十を超えたころだと思う。私は結婚を諦めた。好きな人はいたし、その人と一緒に暮らせたならと思ったこともある。だが私はそういう部分に積極的な男ではなかった。
 そんな私が咲子の目に留まったのだ。自分でこんなことを言ったら身もふたもないが、私はつまらない男だ。何かに熱中することもなく、コツコツと仕事だけをしてきた人間。どうしてそんな人間が咲子の心を振らわすことができたのだろうか。
 咲子と会って話してみると、咲子が我儘で傲慢ではないということはわかった。お嬢様の気まぐれで、私をこれからの人生の伴侶として選んだようにも思えない。
 私はこんな思いを抱きながら暮らした経験がない。地に足はついているが、何だかフラフラして居心地がよくない。ここは今まで私が生きてきた世界なのだろうか。
 いや、今考えるべきは間違いなく来週残業を抱える職員達の負担を少しでも減らすことだ。私は手帳を繰って今週のスケジュールに目を落とした。
 午後八時、私は家のドアを開ける前に時計を確認した。こんな日が金曜まで続く。
「ふう」
 大きくため息をついたそのときだった。
「こんばんは」
 声に聞き覚えがあった。
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