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千一夜
第38章 第七夜 訪問者 隠し事について
 何かが引っかかる。でも京子が話し始めると、そのもやもやしたものがすっと消えてなくなるのだ。
「美味しそう」
 京子はそういうとソファではなく、床に直に座ってテーブルのナポリタンを食べ始めた。
「手は洗ったのか?」
「そんなのいいじゃん」
 京子は子供のようにそう言った。
「そんなに慌てて食べると口の周りがソースでべちゃべちゃになるぞ」
「亮ちゃん、いちいちうるさい。亮ちゃん、口うるさいおっさんは嫌われるよ」
「ご忠告どうもありがとう」
 私がそう言った後、私と京子は笑った。
 私は、京子の笑顔の中に三十年前の京子を探した。目、鼻、そして口。面影は残っていた。愛くるしい京子の微笑みも、少し生意気な性格もどうやら変わっていない。
 成長した京子に出会っていたら(こうして今出会うことができたが、もう少し前に出会えていたらという意味)、私は京子に恋をしたかもしれない。いやいや間違いなく私は京子に惹かれたと思う。
 今私が一人で暮らしているのも、京子と巡り合うことがなかったからなのかもしれない。でもどうだろう、たとえどこかで巡り合うことができたとしても、京子が私に心を寄せることなんかあるのだろうか。
 仮定と想像を組み合わせたところで意味などない。今大切なのは目の前にいる京子だ。
「やっぱり亮ちゃんの作ったナポリタン美味しいよ」
「当り前だ」
「どうやって作るの?」
「これはトリコロールの秘密だ」
「マスターに教わったんでしょ?」
「ああ」
「トリコロールの技を亮ちゃんが受け継いだわけだ」
「技を受け継ぐなんてできないさ。私は市役所の職員なんだ」
「ねぇ、どうして食べないの?」
 私は京子が食べているのを見ているだけだった。
「京子ちゃん、おかわりするだろ?」
「わかった?」
「見てればわかるさ」
 そしてまた私と京子は笑った。
 京子と他愛のない話をするだけで私の気持ちが和らいだ。せかせかしていた自分を一旦リセットすることができる。京子の笑顔は私の疲れを吹き飛ばした。
「遅くなっちゃった。また来ていいかな?」
「もちろん」
 いつの間にか時計は深夜の十一時を回っていた。
 京子を玄関まで見送る。ドアが閉まった。
「うっ」
 ドアが閉まった瞬間、氷のような手で心臓が掴まれた。息苦しい。何かが変だ。
 ……あっ!
 京子はトリコロールのナポリタンを食べたことはない。
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