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千一夜
第38章 第七夜 訪問者 隠し事について

「長谷川っていつも美味しそうなお弁当作るわよね」
そう言ったのは私の同期で総務部の係長をしている香坂仁美だ。
「ずっと一人で生活してきたんだ。慣れだよ慣れ」
「いいえ違うわ。これはプロの仕事よ」
香坂は私の弁当を覗き込んでそう言った。
「人の弁当に興味持つなよ」
「次期市長のお弁当なんてそうそう見れるものじゃないわ」
「外の風景の方がよっぽどおかずになるさ」
私と香坂は今役所の四階展望フロアにいる。たまたま二人の休憩時間が重なった。そして展望フロアに足を運ぶ市民が今はいない。
「そんなことより長谷川、負けないでよ」
香坂は私を長谷川と呼び捨てする。もちろん私も香坂にさんはつけない。
「負けるなってどういうことだ?」
「ゴルフよゴルフ」
「ああ」
どうやら私のスケジュールは、私よりも市の職員の方が知っているようだ。
「遠山の連中まじでむかつくのよ。エリートだか何だか知らないけどさ」
プライム市場に上場している遠山機械工業には日本全国から人間が集まる。給料も他の地場産業より圧倒的にいい。もちろん市役所よりも。
「遠山機械工業に戦いを挑んでるわけじゃないんだ。普通のゴルフだよ」
「普通でも何でもいいから絶対に勝ってよね」
「がんばります」
「ねぇ、遠山咲子ってどんな感じの人?」
「我儘娘だと思っていたが、そうでもない。高飛車なところもなかったし、だからいい意味で予想が外れたな」
「猫を被るのは男だけじゃないわよ。長谷川、せいぜい気を付けることね」
「まだ何も決まっていないんだ。次の日曜にゴルフをするだけだ」
「ゴルフの後は北海道でしょ。羨ましいわ」
「総務にも話が流れているのか?」
「長谷川、今市役所で一番の話題は、長谷川と遠山のお嬢様のことよ。ゴルフも北海道もみんな知ってるわ」
「プライバシーはもうないんだな」
「長谷川の個人情報は市長から漏れてくるから。そんなことなんてどうでもいいわ、長谷川、北海道でばっちり決めてきなさいよ」
「ばっちり決める? 何を?」
「それ女の私に言わせること?」
「まさかとは思うが、そういう個人情報も漏れるのか?」
「当り前じゃない。それってみんなが一番知りたいところよ。長谷川と遠山のお嬢様が目出度く結ばれたのか」
「はぁ」
「ため息なんかついてる場合じゃないわよ」
「あっ、そうだ。香坂に一つ訊きたいことがあるんだ」
「何?」
そう言ったのは私の同期で総務部の係長をしている香坂仁美だ。
「ずっと一人で生活してきたんだ。慣れだよ慣れ」
「いいえ違うわ。これはプロの仕事よ」
香坂は私の弁当を覗き込んでそう言った。
「人の弁当に興味持つなよ」
「次期市長のお弁当なんてそうそう見れるものじゃないわ」
「外の風景の方がよっぽどおかずになるさ」
私と香坂は今役所の四階展望フロアにいる。たまたま二人の休憩時間が重なった。そして展望フロアに足を運ぶ市民が今はいない。
「そんなことより長谷川、負けないでよ」
香坂は私を長谷川と呼び捨てする。もちろん私も香坂にさんはつけない。
「負けるなってどういうことだ?」
「ゴルフよゴルフ」
「ああ」
どうやら私のスケジュールは、私よりも市の職員の方が知っているようだ。
「遠山の連中まじでむかつくのよ。エリートだか何だか知らないけどさ」
プライム市場に上場している遠山機械工業には日本全国から人間が集まる。給料も他の地場産業より圧倒的にいい。もちろん市役所よりも。
「遠山機械工業に戦いを挑んでるわけじゃないんだ。普通のゴルフだよ」
「普通でも何でもいいから絶対に勝ってよね」
「がんばります」
「ねぇ、遠山咲子ってどんな感じの人?」
「我儘娘だと思っていたが、そうでもない。高飛車なところもなかったし、だからいい意味で予想が外れたな」
「猫を被るのは男だけじゃないわよ。長谷川、せいぜい気を付けることね」
「まだ何も決まっていないんだ。次の日曜にゴルフをするだけだ」
「ゴルフの後は北海道でしょ。羨ましいわ」
「総務にも話が流れているのか?」
「長谷川、今市役所で一番の話題は、長谷川と遠山のお嬢様のことよ。ゴルフも北海道もみんな知ってるわ」
「プライバシーはもうないんだな」
「長谷川の個人情報は市長から漏れてくるから。そんなことなんてどうでもいいわ、長谷川、北海道でばっちり決めてきなさいよ」
「ばっちり決める? 何を?」
「それ女の私に言わせること?」
「まさかとは思うが、そういう個人情報も漏れるのか?」
「当り前じゃない。それってみんなが一番知りたいところよ。長谷川と遠山のお嬢様が目出度く結ばれたのか」
「はぁ」
「ため息なんかついてる場合じゃないわよ」
「あっ、そうだ。香坂に一つ訊きたいことがあるんだ」
「何?」

