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千一夜
第38章 第七夜 訪問者 隠し事について
 映画を見ても内容が頭に入ってこない。もっとも何度も見ている映画なので、おおよその展開はわかる。しかし、京子のせいでいつもの自分が壊れている。映画に目をやっても私の中の雄の心はずっと京子に向かっている。
 ときおり私の体と京子の体が触れる。そのたびに京子がつけている香水の匂いが私の鼻孔を通る。こんなとき男は何をするのだろうか? 京子の背中に手を回して自分に引き寄せる? キスをしたり、胸を触ったりするのだろうか?
 恋人同士ならそれはわかる。だが京子は私の恋人ではない。三十年前、偶然知り合って、そして偶然京子が私を訪ねてきたに過ぎないのだ。
「亮ちゃん、面白かったね」
「ああ」
 映画はエンドロールを流している。リモコンを取って停止ボタンを押すことができない。胸の鼓動が大きくなって、もしかしたら京子に私の心臓の音が聞こえているかもしれない。そんなことにでもなれば京子は気づくだろう。私が獣に変身しようとしていることを。
「亮ちゃん、ひょっとしたら勃起してる?」
「えっ?」
「亮ちゃんのおちんちん勃起している?」
「……」
 私は京子の問いに答えることができなかった。京子の目は私の股間から離れない。
「亮ちゃん、亮ちゃんのおちんちん触っていい?」
「……」
 今私は呼吸をしているのだろうか。京子の言葉は魔法の言葉だった。京子が一言話すたびに私の体の自由が奪われていった。
「おちんちん触っていい?」
「……」
 私は小さく頷いた。
 京子の手が私の陰部に伸びてきた。ズボンの上から京子の手は。私のペニスの大きさや硬さを確認していた。
「亮ちゃんのおちんちん、大きくてすごく硬い」
「……」
 恥ずかしくて私は何も言えない。
「ねぇ亮ちゃん」
「何?」
 どうにか私は声を出すことができた。
「亮ちゃん、私でオナニーした?」
「……」
 はいしましたとは言えない。
「したの?」
「……」
 私は逃げられない。私はコクリと頷いた。
「エッチ」
「ごめん、悪かった」
「亮ちゃんは悪くないよ」
「……」
「亮ちゃんのおちんちん直に触っていい?」
「……」
 私はまた頷いた。
 京子は私のズボンのジッパーを下げると、その中に手を入れていった。私のペニスが京子の手で掴まれた。
 私の体は京子によってコントロールされている。私はそこから逃れられないし、逃れるつもりもない。
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