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千一夜
第5章 第二夜 パヴァーヌ ①
耳を澄ますと波の音が聞こえてくる。水平線に目をやると、薄い橙色の空の中でいくつかの雲がじっと夜の闇に溶け込むの待っていた。柔らかな海風が海から陸に流れている。大海原を渡ってきた夏の空気は、浜辺を通るとなぜか乾いて肺に入り込んだ。いよいよ昼の役目を終えた太陽が姿を隠す。そっと、そっと。
この瞬間、私はハワイを独り占めにしているんだわ。本当に良かった。カイルア・コナの別荘が五百万ドルで買えたんですもの。ハワイのサンセットを独り占めにできるなら五百万ドルなんて安いものよ。それにここからは夜の虹が見えるの。初めてムーンボウを見たときは感激したわ。夜に虹なんてなんてロマンチックなの。夕陽に月虹、それはすべて私のもの。誰にも渡さないわ。だって私は欲張りなんですもの、ふふふ。
今日子供たちはたっぷりプールで遊んでくれたし、夕食が終われば自分たちの部屋でぐっすりと目を覚ますことなく朝まで休んでくれるはず。だから誰にも邪魔されずに主人とセックスが愉しめる。主人はどうやって今晩私をいかせてくれるのかしら。もちろん私も主人をいかせる。それを考えるだけで体の芯が疼いてしまう。
主人は私のもの。浮気なんて絶対させないし、ふふふ、主人は浮気なんてできないわ。どうしてそう言い切れるのか? ふふふ、それは誰にも言えない秘密。
「何笑ってるんだ?」
主人が私にそう訊ねた。
「ふふふ、内緒」
「内緒ってどういうことだよ」
「内緒は内緒」
「ふん」
「何がふんよ」
私は主人に喧嘩を仕掛ける。
「……」
そう、私の主人は喧嘩にのらない。
別荘のウッドデッキで私と主人はワインを飲みながらオレンジ色が揺れる海を見ている。
「ねぇあなた、翔太のことなんだけど」
「翔太がどうしたんだ?」
「成績が良くないのよ」
「ハワイまで来て翔太の成績のことなんて言うなよ。せっかくの休暇が台無しになる」
「台無しになるような成績だったから言うの」
「……それで」
「サッカーやめさせたわ」
「おい、そんな意地の悪いことするなよ。翔太がかわいそうだ」
「あなたは翔太の成績知らないでしょ。だから私を悪者みたいに言えるのよ」
「勉強なんていつかするさ」
「もう、むかつく。楽々と東大に入ったあなたが憎らしいわ」
「楽して東大に入った覚えはないがね」
「ばか」
私は主人を叩くふりをした。
この瞬間、私はハワイを独り占めにしているんだわ。本当に良かった。カイルア・コナの別荘が五百万ドルで買えたんですもの。ハワイのサンセットを独り占めにできるなら五百万ドルなんて安いものよ。それにここからは夜の虹が見えるの。初めてムーンボウを見たときは感激したわ。夜に虹なんてなんてロマンチックなの。夕陽に月虹、それはすべて私のもの。誰にも渡さないわ。だって私は欲張りなんですもの、ふふふ。
今日子供たちはたっぷりプールで遊んでくれたし、夕食が終われば自分たちの部屋でぐっすりと目を覚ますことなく朝まで休んでくれるはず。だから誰にも邪魔されずに主人とセックスが愉しめる。主人はどうやって今晩私をいかせてくれるのかしら。もちろん私も主人をいかせる。それを考えるだけで体の芯が疼いてしまう。
主人は私のもの。浮気なんて絶対させないし、ふふふ、主人は浮気なんてできないわ。どうしてそう言い切れるのか? ふふふ、それは誰にも言えない秘密。
「何笑ってるんだ?」
主人が私にそう訊ねた。
「ふふふ、内緒」
「内緒ってどういうことだよ」
「内緒は内緒」
「ふん」
「何がふんよ」
私は主人に喧嘩を仕掛ける。
「……」
そう、私の主人は喧嘩にのらない。
別荘のウッドデッキで私と主人はワインを飲みながらオレンジ色が揺れる海を見ている。
「ねぇあなた、翔太のことなんだけど」
「翔太がどうしたんだ?」
「成績が良くないのよ」
「ハワイまで来て翔太の成績のことなんて言うなよ。せっかくの休暇が台無しになる」
「台無しになるような成績だったから言うの」
「……それで」
「サッカーやめさせたわ」
「おい、そんな意地の悪いことするなよ。翔太がかわいそうだ」
「あなたは翔太の成績知らないでしょ。だから私を悪者みたいに言えるのよ」
「勉強なんていつかするさ」
「もう、むかつく。楽々と東大に入ったあなたが憎らしいわ」
「楽して東大に入った覚えはないがね」
「ばか」
私は主人を叩くふりをした。