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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影

「私たちに気を使ってくれたのよ」
「食事は一人より二人。二人より三人の方が楽しいのに」
私と咲子はホテルのスカイレストランで食前酒のシェリーを飲んでいる。竹内に食事を誘ったが丁重に断られた。
「ふふふ」
「またゴルフで負けた男の間抜け顔が浮かんだんですか?」
「いいえ」
「じゃあ」
「私ね、長谷川さんがいないとき、竹内に長谷川さんのことを訊ねてみたの」
「私がいないとき?」
「そう」
「何だか怖いですね。それで竹内さんは私のことをどう言ってられましたか?」
「気を悪くしないでね」
「構いません」
「ザ役所人間」
「役所人間? それにザがつくんですか?」
「ふふふ、ごめんなさい」
「ザ役所人間か」
「怒った?」
「とんでもない。竹内さんの言う通りですよ。役所一筋で生きてきたというのは間違いないですから」
「それから長谷川さんがゴルフで負けたときの顔も想像できると言ってたわ」
「ゴルフか」
ゴルフの話題はもう勘弁してほしかった。
「長谷川さんは本当に正直な人」
「正直?」
「自慢じゃないけど、私ゴルフで負けた記憶がないの。私に負けた男たちの顔は大体同じ」
「同じ?」
「言い訳も同じ。こんな感じよ。最近残業続きで練習場に行っていないとか、新しく買ったクラブがしっくりこないとか。何だかそういうの聞いてると私が悲しくなっちゃうわ。だってそうでしょ、こんな惨めな男たちと私はコースを回っていたのよ。でも長谷川さんは違ったわ。潔く負けを認めた本当の男の顔。私ちょっと……」
「……」
ちょっとの後を待ったが、咲子はその先のことは何も言わなかった。
「旅行のプラン、私が決めちゃってごめんなさい」
「構いませんよ。それどころか有難いです。旅慣れてない私なんかより咲子さんが決めた方がいいに決まってますから。ただ、行き先がシークレットなのは少しドキドキしますね。わかっているのは今日と最終日の函館だけ」
「明日のヒント」
「ヒント?」
「北の方に向かいます」
「北? 富良野かな旭川かな……まさか稚内?」
「ふふふ、なかなかいい読みよ」
「じゃあ稚内?」
「さぁどうかしら。ふふふ」
「一つだけ咲子さんにお願いしたいことがあるんですが」
「この旅行のことで?」
「はい」
「何ですか?」
「ゴルフ場には絶対に近寄らないでください」
「ふふふ」
咲子も私も大笑いをした。
「食事は一人より二人。二人より三人の方が楽しいのに」
私と咲子はホテルのスカイレストランで食前酒のシェリーを飲んでいる。竹内に食事を誘ったが丁重に断られた。
「ふふふ」
「またゴルフで負けた男の間抜け顔が浮かんだんですか?」
「いいえ」
「じゃあ」
「私ね、長谷川さんがいないとき、竹内に長谷川さんのことを訊ねてみたの」
「私がいないとき?」
「そう」
「何だか怖いですね。それで竹内さんは私のことをどう言ってられましたか?」
「気を悪くしないでね」
「構いません」
「ザ役所人間」
「役所人間? それにザがつくんですか?」
「ふふふ、ごめんなさい」
「ザ役所人間か」
「怒った?」
「とんでもない。竹内さんの言う通りですよ。役所一筋で生きてきたというのは間違いないですから」
「それから長谷川さんがゴルフで負けたときの顔も想像できると言ってたわ」
「ゴルフか」
ゴルフの話題はもう勘弁してほしかった。
「長谷川さんは本当に正直な人」
「正直?」
「自慢じゃないけど、私ゴルフで負けた記憶がないの。私に負けた男たちの顔は大体同じ」
「同じ?」
「言い訳も同じ。こんな感じよ。最近残業続きで練習場に行っていないとか、新しく買ったクラブがしっくりこないとか。何だかそういうの聞いてると私が悲しくなっちゃうわ。だってそうでしょ、こんな惨めな男たちと私はコースを回っていたのよ。でも長谷川さんは違ったわ。潔く負けを認めた本当の男の顔。私ちょっと……」
「……」
ちょっとの後を待ったが、咲子はその先のことは何も言わなかった。
「旅行のプラン、私が決めちゃってごめんなさい」
「構いませんよ。それどころか有難いです。旅慣れてない私なんかより咲子さんが決めた方がいいに決まってますから。ただ、行き先がシークレットなのは少しドキドキしますね。わかっているのは今日と最終日の函館だけ」
「明日のヒント」
「ヒント?」
「北の方に向かいます」
「北? 富良野かな旭川かな……まさか稚内?」
「ふふふ、なかなかいい読みよ」
「じゃあ稚内?」
「さぁどうかしら。ふふふ」
「一つだけ咲子さんにお願いしたいことがあるんですが」
「この旅行のことで?」
「はい」
「何ですか?」
「ゴルフ場には絶対に近寄らないでください」
「ふふふ」
咲子も私も大笑いをした。

