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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影
 もちろん今でもあのときの私は間違ってはいなったと信じている。公務で出張してるのだ。上司の期待より、市民の期待の方が大きい。
 ところが問題が小さくなることはなかった。上司に楯突く部下はつるし上げられる。土産はどこかに消えた。命令に従わなかったということで上司は私に懲戒処分をちらつかせた。
 驚きはしたが、どうにでもなれとあのときの私は覚悟を決めていた。そんな私を救った人間がいる。当時は市議会議員だった現市長だ。
 上司の言うことをきかない部下は飛ばされる。確かに私は飛ばされた。市の議会運営事務局から県の財政課への出向が命じられたのだ。
 一年の約束だった出向期間は三年に伸びた。望んでいないのに私は出世コースのトップに立った。
「父が長谷川さんのことをこんな風に言ってました。怒らないでくださいね」
「怒りませんよ」
「馬鹿な男がだがしんのある男だ。しんと言う漢字は芯ではなく真実の真。咲子にはぴったりの男だ」
「ぴったり?」
「そう、ぴったり」
「あの頃は右も左もわからずにただがむしゃらに仕事をしていただけです」
「長谷川さんを手放したくなかった県の財政課は、一年の約束を三年に延ばしたと市長から聞きましたが」
「……」
 財政課の仕事はきつかった。仕事が定時で終わることなどなかったが、充実した日々を過ごすことができた。
「長谷川さんはもう知ってますよね?」
「知ってる? 何のことでしょう?」
「私の兄と姉の関係です」
「咲子さんのお兄さんとお姉さんですか?」
「仲が悪いんです。正確に言うと兄と姉の夫ですが」
「……」
 噂で聞いたことはある。東大出の咲子の姉の夫と咲子の兄は犬猿の仲だと。
「私、遠山機械工業の株を5%所有してるんです」
「……」
「兄からそして姉の亭主から譲ってくれとほぼ毎日連絡があります」
「毎日……ですか?」
「長谷川さん、心配しないでください。この旅行の間だけは連絡しないでくれと言ってありますから」
「咲子さんのお父さんは何とおっしゃっているんですか?」
「たった一言、譲るな、です」
「譲るな……ですか」
「ええ。毎日憂鬱です。電話がかかってくるたびに心が重くなります。だからゴルフで負けたときの長谷川さんの顔を思い出すたびに何だかほっとするんです」
「不甲斐ない私の顔も役にたったんですね」
「ふふふ」
 屈託なく笑う咲子が綺麗だと思った。
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