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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影

誰かが言った。いや、誰もそんなことは言っていないのかもしれない。だったら私が言おう。高級車の後部座席は動く応接室だ。エンジン音は風の中に消え、地面の凹凸が作り出す車の揺れは、レクサスのサスペンションがしっかり受け止めてくれる。そしてもう一つ。竹内は本当に運転が上手い。発進も停止も気を付けていないとわからない。これがプロの運転なのだろう。
政治家は一度やったらやめられないと聞く。なるほどこういう空間を味わってしまうと、どんな人間も手にしている地位は簡単に手放さない。醜く惨めな姿をさらしても、責任と信念(そもそも政治家に信念があるのか甚だ疑問だが)に背を向けても政治家は政治屋を続ける。
竹内が操作する高級車は一度道東自動車道を下りた。地元の高級ワインを酒屋で買い、その近くの寿司屋で昼食を済ませた。
私は竹内を昼食に誘ったが、竹内には丁重に断られた。咲子によれば、私たちが昼食を取っている間、竹内にはやらなければならない仕事があるそうなのだ。
道東自動車道に戻る。大きな道路標識が私に行き先を教えてくれた。
「笑わないでくださいね」
行き先の予想がついたとき、咲子はそう話し始めた。
「了解です」
「長谷川さんは都市伝説を信じていますか?」
「都市伝説?」
「はい」
「都市伝説……か、話は面白いと思いますよ。でも百%信じるとはできないですよね」
「長谷川さんは、クッシーを知ってますか?」
「クッシー……、クッシークッシー……。ああ、だいぶ前に屈斜路湖で目撃された未確認生物のクッシーですか?」
「はい」
「咲子さんはそのクッシーが見たい?」
「はい」
「ははは」
私は大笑いした。
「長谷川さん、お嬢様に謝ってください」
竹内は笑みを浮かべて私にそう言った。
「申し訳ない。咲子さん、ごめんなさい。許してください。咲子さんが少女みたいなことを言ったのでついつい笑ってしまいました。本当にごめんなさい」
「長谷川さん、私今でも少女ですが。ふふふ」
「少年の心をなくしたおっさんが言います。もしかしたらクッシーって熊なんじゃいゃないかなと。ははは」
「ふふふ」
動く応接室の中は笑いが絶えなかった。他愛のないことでも車内は盛り上がった。咲子の形勢が悪くなると竹内が必ず咲子に加勢した。
私の頭の中から役所の仕事が消えた。
政治家は一度やったらやめられないと聞く。なるほどこういう空間を味わってしまうと、どんな人間も手にしている地位は簡単に手放さない。醜く惨めな姿をさらしても、責任と信念(そもそも政治家に信念があるのか甚だ疑問だが)に背を向けても政治家は政治屋を続ける。
竹内が操作する高級車は一度道東自動車道を下りた。地元の高級ワインを酒屋で買い、その近くの寿司屋で昼食を済ませた。
私は竹内を昼食に誘ったが、竹内には丁重に断られた。咲子によれば、私たちが昼食を取っている間、竹内にはやらなければならない仕事があるそうなのだ。
道東自動車道に戻る。大きな道路標識が私に行き先を教えてくれた。
「笑わないでくださいね」
行き先の予想がついたとき、咲子はそう話し始めた。
「了解です」
「長谷川さんは都市伝説を信じていますか?」
「都市伝説?」
「はい」
「都市伝説……か、話は面白いと思いますよ。でも百%信じるとはできないですよね」
「長谷川さんは、クッシーを知ってますか?」
「クッシー……、クッシークッシー……。ああ、だいぶ前に屈斜路湖で目撃された未確認生物のクッシーですか?」
「はい」
「咲子さんはそのクッシーが見たい?」
「はい」
「ははは」
私は大笑いした。
「長谷川さん、お嬢様に謝ってください」
竹内は笑みを浮かべて私にそう言った。
「申し訳ない。咲子さん、ごめんなさい。許してください。咲子さんが少女みたいなことを言ったのでついつい笑ってしまいました。本当にごめんなさい」
「長谷川さん、私今でも少女ですが。ふふふ」
「少年の心をなくしたおっさんが言います。もしかしたらクッシーって熊なんじゃいゃないかなと。ははは」
「ふふふ」
動く応接室の中は笑いが絶えなかった。他愛のないことでも車内は盛り上がった。咲子の形勢が悪くなると竹内が必ず咲子に加勢した。
私の頭の中から役所の仕事が消えた。

