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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影

チェックインを済ませて五階の部屋に向かう。部屋に入ると窓の向こうに屈斜路湖が大きく見えた。咲子はレイクビューツインルームの部屋の調度品には目もくれず、窓の近くに立って湖を見ている。
「素敵だわ。この風景だけ家に持って帰りたい」
咲子がそう言った。
「一つだけ方法がある」
「方法?」
「ここに住めばいいのさ」
「ふふふ」
縦長の部屋は決して広くはない。だが、屈斜路湖を見せられたらつまらない不満は消える。そして心も綺麗にリセットされるのだ。
役所のあれこれが本当に私の頭の中から消えた。私は今咲子との旅を楽しんでいる。
「竹内さんこんなことまでしてくれるんだよな。凄い人だよ」
湖が見えるようにセットされたソファとテーブル。そのテーブルの上に竹内が用意してくれた飲み物が置かれていた。淡いピンク色のシャンパンと透明な炭酸水。炭酸水は咲子のリクエストなのだろう。咲子は今日もアルコールを飲むつもりはないらしい。
「竹内は父が一番信用している人間よ」
「会社の中で?」
「そういうこと」
「……」
役所だろうが、上場企業だろうが、それぞれに事情がある。
「多分このソファとテーブルも竹内が屈斜路湖がよく見えるように動かしていると思うわ」
そう言って咲子はソファに座った。そして炭酸水を一口口に含む。
「車の運転だけじゃないんだな」
「竹内は何でもできる人よ」
「あれを見ればわかるよ」
竹内によって運ばれたスーツケースに目をやった。広くない部屋のスペースをうまく利用して私と咲子のスーツケースが置かれている。
「私たちの邪魔にならないように、スーツケースの中に入っている荷物が取り出しやすいように」
「その通り」
「長谷川さん、このホテルには二泊します。今日と明日。わがまま言ってごめんなさい」
「構いませんよ。この風景は何時間見ていてもあきません。それに竹内さんにもここで休んでももらわないと」
「ふふふ、竹内は休みませんよ」
「えっ?」
「いずれわかります」
竹内が用意してくれたウエルカムドリンクを飲んだ後、私と咲子は湖畔を散歩した。湖の匂い、そして緑の香り、自然の呼吸。湖底から何かが叫んでいるような気がした。日本最大のカルデラ湖には本当にクッシーがいるのかもしれない。そうだ、その叫び声が聞こえた者だけにクッシーが見えるのだ。
あれ? クッシーが私たちを見ている?
「素敵だわ。この風景だけ家に持って帰りたい」
咲子がそう言った。
「一つだけ方法がある」
「方法?」
「ここに住めばいいのさ」
「ふふふ」
縦長の部屋は決して広くはない。だが、屈斜路湖を見せられたらつまらない不満は消える。そして心も綺麗にリセットされるのだ。
役所のあれこれが本当に私の頭の中から消えた。私は今咲子との旅を楽しんでいる。
「竹内さんこんなことまでしてくれるんだよな。凄い人だよ」
湖が見えるようにセットされたソファとテーブル。そのテーブルの上に竹内が用意してくれた飲み物が置かれていた。淡いピンク色のシャンパンと透明な炭酸水。炭酸水は咲子のリクエストなのだろう。咲子は今日もアルコールを飲むつもりはないらしい。
「竹内は父が一番信用している人間よ」
「会社の中で?」
「そういうこと」
「……」
役所だろうが、上場企業だろうが、それぞれに事情がある。
「多分このソファとテーブルも竹内が屈斜路湖がよく見えるように動かしていると思うわ」
そう言って咲子はソファに座った。そして炭酸水を一口口に含む。
「車の運転だけじゃないんだな」
「竹内は何でもできる人よ」
「あれを見ればわかるよ」
竹内によって運ばれたスーツケースに目をやった。広くない部屋のスペースをうまく利用して私と咲子のスーツケースが置かれている。
「私たちの邪魔にならないように、スーツケースの中に入っている荷物が取り出しやすいように」
「その通り」
「長谷川さん、このホテルには二泊します。今日と明日。わがまま言ってごめんなさい」
「構いませんよ。この風景は何時間見ていてもあきません。それに竹内さんにもここで休んでももらわないと」
「ふふふ、竹内は休みませんよ」
「えっ?」
「いずれわかります」
竹内が用意してくれたウエルカムドリンクを飲んだ後、私と咲子は湖畔を散歩した。湖の匂い、そして緑の香り、自然の呼吸。湖底から何かが叫んでいるような気がした。日本最大のカルデラ湖には本当にクッシーがいるのかもしれない。そうだ、その叫び声が聞こえた者だけにクッシーが見えるのだ。
あれ? クッシーが私たちを見ている?

