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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影
 夕食をすませて私と咲子はホテル館内にある大浴場に向かった。ホテルの案内では、その温泉は地下1000mから湧き出ていると書かれていた。
 湯に浸かりながらふと思った。地下1000mという極めて具体的な数字は、誰がどのような計算式を使って導き出したのだろうか。そして私はそんなことを考えた自分を叱った。今は温泉と咲子との旅を楽しむことが大事なのだと。
 風呂から上がり私は女湯から出てくる咲子を待った。そして咲子と一緒に専用エレベーターに乗り、湖が見える部屋に戻った。 
 テーブルの上にはサッポロクラッシックとノンアルコールビールが用意されていた。温泉に浸かった後はビール。このチョイスは間違いなく竹内だ。
 心当たりがある。屈斜路湖に向かうレクサスの車内で私は札幌出張の話をした。安いビジホで私はささやかな贅沢を楽しんだ。折角の北海道、その夜は発泡酒ではなくサッポロビールを飲んだのだ(言うまでもないが自分のお金で買っている)。札幌で飲むサッポロ、本当に旨かった。人生で一番のビールだったかしれないと言ったら、咲子と竹内に大笑いされた。
 他愛のない私の話を竹内は覚えていた。
 咲子が私のグラスにサッポロを注いでくれた。私はノンアルコールビールを咲子のグラスに注いだ。
「これでいいの?」
 私は咲子のグラスにノンアルコールビールを注ぎながらそう訊ねた。
「ふふふ、ちょっと」
 咲子はそう答えた。ちょっとの先を訊ねるのは野暮だ。
「竹内さん、グラスも冷やしててくれたんだ」
 ビールだけでなく竹内はグラスも冷やしていたのだ。
「気が利くでしょ」
「スーパーマンだよ。車の運転は上手いし、熊も撃つ。それでいてしっかり気遣いのできる人。すごいよな」
「だから父は竹内を手放さない」
「なるほど」
「乾杯しましょ」
 グラスをカチンと合わせて私はサッポロクラッシックをぐいぐいと飲んだ。
「旨い」
 心の底から出た言葉。香りよし、喉l越しよし、コクよしキレよし、ビールの旨さを例える言葉はいくつかあるのだろうが、体裁のいい比喩なんかこのビールには必要ない。
「ふふふ」
「真っ黒な屈斜路湖も悪くない」
「ふふふ」
「咲子さん、笑ってばかりでずるいな」
「だって長谷川さん、小説家みたいなことばかり言うんですもの」
「すべての人間は小説家だと三島が言いました」
「三島?」
「そう、三島」
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