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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影
「お客さん、凄いですね。これだけ上手にカヤックを操れる人を初めて見ました。もう僕なんかがいなくても一人で屈斜路湖を回れますよ」
 インストラクターが言ったのはお世辞ではない。咲子は湖面を滑るようにカヤックを操縦していた。
 カヤックに乗った咲子の後姿を見ただけで、私は咲子の隠れた才能に気付いた。上半身が全くぶれない。カヤックに一度でも乗ったことがある人ならわかると思うが、ぶれない上半身を作っているのは強靭な下半身(強靭は少し言い過ぎかもしれないが)だ。下半身と上半身をバランスよく上手く連動させることによって、無理なくパドリングができる。
 ゴルフでもそうだった。咲子が美しくて大きなスイングをしても、体幹がよほど強いのか体の中心線が左右に動くことがなかった。
 ゴルフに負けた私に咲子はこう言った。
「離婚した後、三百六十五日毎日ゴルフをしていたんです。ツアープロになろうかと思いましたが、父に止められました」
 驚きはしたが、咲子にゴルフで負けても悔しくなかった。というよりツアープロを目指そうとしていた人間にスクラッチの戦いを挑んだ自分が愚かに思えた。
「前の人をお手本にしてください。ああ、まだ力んでるな。体の力を抜いて、屈斜路湖に身を委ねるようにしましょう」
 私の横でカヤックを漕いでいるインストラクターが私にそう声をかけた。
「……」
 私にはインストラクターに言葉を返す余裕がない。前の人を手本にと言われても、もう前に人たちは(竹内は咲子の次にカヤックの操縦が上手かった)初心者を卒業している。
「大丈夫、大丈夫。クッシーなんて絶対出ませんから、ははは」
「……」
 この状況でクッシーの話をされるとどきりとする。信じてなんかいないが、万が一ゴジラのように突然現れたりしたら、屈斜路湖の中で逃げ場を探すことは百%不可能だ。
 でもどうだろう? もしクッシーが現れたら、咲子はどうするだろうか? 
 咲子ならカヤックを漕いでクッシーに近づいて、湖の中から出たクッシーの頭を撫でるのではないだろうか。間違いない、咲子はきっとそうする。
「長谷川さん、早くこっちに来て」
 咲子が私の方を振り返り、大きな声でそう言った。
「無理です。先に行ってください」
 私はそう咲子に返した。
「無理なんかじゃないです。がんばりましょう」
 励ましてくれたのは私の隣のインストラクターだった。

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