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千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影
 湖に出る前にインストラクターは「カヤックが横転することはほとんどない」と言った。この言葉は誰を基準にして言っているのか、私はカヤックにしがみつくような恰好(第三者が見れば間違いなくそう見えるはずだ)で考えた。
 確かに咲子や竹内のカヤックが横転することは絶対にない(それははっきり言える)。だがインストラクターの言葉は私には通じない。私の頭の中には、湖に放り出される哀れな自分の姿が何度も何度も映し出された。恐怖は緊張を生み、緊張はカヤックの操縦を難しくした。
 ところが、そんな私でも時間が経つにつれてコツのようなものがわかってきた。まぁ、そのコツも最低限カヤックが横転しないくらいのものなのだが、それでも不安の一つは解消された。
 予定のコースを回ってきて、カヤック終了!……とはならなかった。予想はしていたが、咲子がもう一度別のコースを回りたいと言い出したのだ。
 この時期の屈斜路湖でのカヤックのアトラクションは人気があるみたいで、午後は予約でいっぱいだと言っていた。だが、どういう力が働いたのか、インストラクターは咲子の我儘を受け入れた。
 咲子が湖に出れば竹内も咲子に続く。そんな二人を私が湖畔で眺めているわけにはいかない。幸いなことに横転の危険も避けられるくらいカヤックを操れるようになった(だからと言って咲子と同じレベルに到達したとは言えない)。午後はもっと湖と自然を楽しもう。少しだけ余裕が私の中に生まれた。
 昼食を済ませて私たち三人はまた屈斜路湖でカヤックを楽しんだ。多分、いや間違いなく明日の朝は体のあちこちに痛みを感じているであろう。普段使わない筋肉が今静かに悲鳴を上げているのだ。まぁ、こればかりは仕方がない。
 ライフジャケットの世話になることはなかった。夕食のとき、咲子はずっとカヤックと屈斜路湖の話をしていた。話すのは咲子、私は咲子の話の聞き役。
 しかし……。
 話題を変えたのは咲子だった。
「長谷川さん、昨日の夜はよく眠れましたか?」
 咲子のこの問いかけに私は適当に答えておけばよかった。
「カーテンを閉めるとき、屈斜路湖にいた誰かから手を振られました」
 湖には誰もいなかった。私が見たのは光で、その光が揺れているのを見ただけだ。こんな戯言に咲子が飛びつくはずなどない。だから私は昨日の夜の出来事について話したのだ。
 咲子の顔色が変わった。
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