この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
千一夜
第40章 第七夜 訪問者 影
 咲子の学生時代のことが気にならないわけではないが、私はそれを咲子に訊ねなかった。咲子の過去を知って動揺する姿を晒したくない。元カレと聞いただけで私の中に嫉妬が芽生える。しかし私と咲子では住む世界が違う。咲子が言うように私と咲子では真逆なのだ。私のジェラシーなんて何の意味もない。
「それじゃあ学生時代の思い出は?」
 咲子の質問が続く。
「思い出……ですか?」
「はい」
「うん~ん。あっ、料理を教えてもらったことかな」
「経済学部で?」
「いやいや大学じゃなくてアルバイト先での話です。そこのマスターに料理のコツのようなもの教えてもらったんです。マスターの秘伝ですね。でもナポリタンとピラフだけでしたけどね」
「今度長谷川さんの作ったナポリタンとピラフ、頂いていいですか?」
「素人が作ったナポリタンとピラフですよ。そんなんでいいんですか?」
「是非」
「わかりました」
 ここで光の話を持ち出すほど私は馬鹿ではない。私が見た光なんてなかったことにすればいい。そうすれば咲子も、そして私も、心のどこかにちくりとした痛みを感じずに済む。
 差し障りのない話がしばらく続いた。そして昨日同様咲子は先に休むと言ってベッドに向かった。
 ワインをあと一杯飲んで歯を磨いたら私も休もうと思った。
 非日常というやつは私にアルコールを連日大量に(私にとって)運んでくる。旅が終わり、役所に戻ったらアルコール中毒になっていたなんて笑い話にもならない
 控えようと思っても竹内の選んだ酒が旨すぎる。明日はどんな酒が用意されているのか、そんなことを考えている私はもう立派なアルコール中毒なのかもしれない。
 私は自分のベッドに潜り込んで、少し経ったときだった。そのとき私は、眠りの世界にいる誰かに思い切り手を引っ張られようとしていた。
 最初に感じたのは、私の体に触れた誰かの体だった。二番目に感じたのは匂い……だった。花の香りが鼻孔を通る。私は一瞬ここがお花畑なのではないかと思った。
 私は自分が感じたものを確かめるために目を開けようとした。 
 そのとき……。
「長谷川さん、今日はここで休みたいの。いいかしら?」
「……」
 答えることができなかった。だが、私は咲子の目に合図を送った。
 私の目は咲子にこう伝えたのだ。
「構いません」
 と。
/495ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ